【d!】8月32日【合作】 (ページ31)

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宿題の最終確認(em) ページ31

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出発直後の大きな揺れでよろけそうになったとしても直ぐに支えてくれる人の存在の大きさを実感する。
幼少期の記憶よりは余程改善されたとはいえ、この路線は私鉄だけあってやや予算不足に喘いでいた。
実際には連結部が派手に軋みつつ揺れるだけなのだが。

｢大丈夫ですか？｣
｢ありがとう、久しぶりに乗ったからよろけちゃいました｣
｢確かに揺れますね。掴まって良いですから｣

学生は夏休み中とはいえ、宿題の追い込み時期であろう8月最終週。
ほんのり秋に近付いた気候はそれでもなおジリジリと肌を焼き、地元民であろう乗客は車内のやや効きの悪い冷房をありがたがりつつも扇子で顔を扇いでいる。
海沿いの駅へと向かうこの路線だが、真昼間の一番暑い時間に海へ向かって移動する客がいるわけでもなく座席はまばらに埋まっていた。
規模でいえばとても小規模で、辛うじて市境を1つ跨ぐ程度だ。
地元の要望と地域の特性を擦り合わせつつ建設したせいなのか、駅と駅の間が短い上に市街地を縫うように走るので通常の電車よりも揺れる。
世界的に見ても珍しいタイプの路線故にコアな人気を誇っているらしいが、日常で乗っていたものからするともう少し何とかならないものか、と文句のひとつも言いたかった。
今はこの地を離れて生活しているから尚のこと揺れが気になる。

｢良い路線ですね｣
｢そうかな｣
｢眼下の景色がとても良いです｣

住宅街を駆け抜けた先、頭上の線路が上向きになる。
地面を走る電車にはそうそうない登り区間を超えた先の駅は乗車した駅よりも年季を感じる駅舎だ。
そうは言ってもこまめに手入れされているのか、ペンキを塗り直した跡が見られた。
生暖かい空気がドアから入ってきて、一気に車内の温度が上がったように感じられる。
駅と駅の間が近いとこの時間が割と苦痛だ。

｢エーミールさん｣
｢何でしょう？｣
｢覚悟してください｣
｢え、何です？何かあるんですか？｣

ドアが締まり、緩やかに列車が動き出す。
効きが悪いとはいえ冷房のありがたさが身に染みてきた頃、この路線は最初の山場を迎える。
いや実は既に山の上なんだが。
遠くに見える景色はここよりも遥か下に広がっている。
つまりこの先は、そういうことだ。

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