【d!】8月32日【合作】 (ページ29)

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何が楽しくて元々好きだった人が元カレが好きだったと泣いてる姿を見なければならない。
名前どころか苗字も知っている。でも名前で呼んだのは、彼女と俺は別にこれといった面識がなかったから、そんな立場を利用した。利用したバチが当たったのか、彼女は酷い振り方をしたアイツをまだ「大好き」だといった。

思い出に縋って、でもいつか忘れればいいなんて。まだ片思いを引き摺っている自分が聞いて呆れる。

なぁ知っとる？
学校前で会えたのは偶然やけど、俺家は真反対なんよ。部活帰りに普通せんやろこんなこと。
それでも遠回りしてるのはたまたまでも一緒に花火を見たという思い出が欲しかったから。
別れたしワンチャンなんて思っとったけど、もう無理だろうなと内心諦めた時。

「…好き」
「えっ」

心臓が、止まるかと思った。
早鐘を打ち、ほんの一瞬の間が無限のように長く感じる。
遠くで聞こえたフィナーレが始まるといった放送などどうでもいいほど釘付けになった。
結局彼女の好きを向けられていたのは元カレだけど、自分の前で子供のように泣いている姿はどうしようもなく綺麗で、可愛くて、冷めたかなって思った熱は一気に体を熱くする。

その隙間を埋めるのが、俺ならいいのに。

そんな言葉は飲み込んで、ただ花火に照らされ泣きじゃくる彼女を眺めた。

　

セミが羽化したらそこには何が残るのか。

そこには思い出(抜け殻)に縋る人間が残っていた。

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