【d!】8月32日【合作】 (ページ27)

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「ずっと顔色悪いし、そのまま返す訳にも行かんから着いてこうとしてたの気づいてなかったんか」

シャオさんの飲みかけのペットボトルのスポーツドリンクを飲み干して、蒼い土手の草原に身体を倒す。
蒸し暑いしきっと蚊にも食われているが、人混みから離れたからか少し体の火照りは冷めてきた。

「…そんなに顔色悪かった？」
「薄暗い中でも分かるくらいには。」

日もほとんど沈み、日中とは違った濃い青が空を覆う。穏やかでぬるい風が頬を撫でて、無性に胸が締め付けられて、思わず腕で顔を隠した。

「…好きだったの。周りの人がどれだけ遊びだろって笑っても、苦言を呈しても、そんなことわかった上で私はどうしようも無い馬鹿だったから好きになっちゃったの。」

声が震える。
鼻も垂れてきそうで可愛くない。
それでも泣かなかったのは、一種の意地であり、これまでアイツが泣かせてきたおんなと一緒になりたくなかったから。

「諦められへんの？」
「…諦めてるよ、最初っから。でもこれを埋めてくれるのは今も昔もあいつだけなの。」

数ヶ月でいなくなるのに無くならない穴を作って帰るだなんて、それこそ夏の風物詩の蝉みたいな男だ。
ずっと一緒なのにあっさり殻を残して脱皮したかと思えば、ずっとペラペラ鳴きながら求愛行動してるし、偏見だけど早死しそうだし。

ポロポロと思ったことを口に出しているとシャオさんはケラケラと笑って、「まさにピッタリやな"空(うつ)先生"。」とか言うから、この人はとりあえず家に帰ったら蚊に刺されまくった事に気が付いて私と話した事を後悔しとけばいい。
…それは私も同じことだが。「でもええんちゃう、本人にしか埋められなければそれで。」

一頻り笑った後にシャオさんは目尻に浮かんだ涙を拭いながらそうけろりと言ってのけて、少し土で汚れ青臭くなったであろう服をパタパタと叩いた。

「…けど」
「Aさんの考え方だったらその抜け殻(思い出)は大事に持っておいて、捨てられないなら飾って、もういいと思ったらその頃にはいつの間にか無くなっとるやろ。」

立てる？と言いながら手を差し出すシャオさんの顔は、クライマックスと言わんばかりに打ち上がる花火で少し照らされる。
少し冷たい手を借りて立ち上がって、そのほんの一コマだけど手を借りた時に大好きな、大好きなあの人を思い浮かべた。

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