【d!】8月32日【合作】 (ページ26)

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焼けた肌と大きなカバンを背負った彼はよく「シャオちゃん」と呼ばれてた。でも本名は知らない。
でもそれはおそらく向こうも同じ事で、彼がよく私を「名前ちゃん」と呼んでいたから知っていただけで、苗字を知らないから私を「Aさん」と呼んだのだろう。
確か野球部で一年生の時から好成績を残した、ショートエースだなんだと周りの女子が噂していた。それに加えて中性的な甘いマスクだ。そりゃあモテる。名前はちょっと、覚えてないけど。

「もう七時やけど、学校でなんかあったん？」

挨拶だけ軽くしてさっさと行こうと思ったのに話しかけられてしまって、思わずにっこりと笑顔を浮かべた。

「ちょっと夜の散歩してたんだ。でもそろそろ帰るよ。」
「…へぇ、それなら駅まで一緒に行こうや。」

そう誘われたら断るも断れない。
とりあえず了承してシャオさんの言葉に相槌をした。

シャオさんは私の荒れた心情を知っている訳では無いので、最短距離で駅へと一緒に歩く。近くで祭りがあるのか人が多い。
どうしようもなく賑やかで約束を破った罪悪感とか、本当だったら夏祭り一緒に行こうねって約束もしてたのにとか、私が一人有頂天になっている中アイツは何人に同じ言葉を吐いたのか…とか。
ぴたりと、人混みを気にせず立ち止まった私と、そんな私を振り返って見るシャオさん。
人が私達だけを避けて、ちょっとしたスペースが出来たそこは、まるで透明なドームの壁があるみたいで。

「…Aさん？」
「ごめん、ちょっと人混み苦手だから河川敷歩いて帰る。」

好奇の目に晒されながらもそれを振り切って、問答無用で人混みを逆走して逃げた。
急いでるからか呼吸が苦しい。視界もぼやけるほどの人混みと熱から逃げたくて、早く、早く、はやく＿＿＿
途中、あいつによく似た男が知らない女と手を繋いでいた気がした。
女の腰を抱き、歩いていた気がした。
誰かと笑っていた気がした。
可愛いねって、嘯いて

「まっ、てや！！」

ぐいっと腕を引かれた所ではたと意識が戻る。
いつの間にか祭りで賑わった町からは少し離れた河川敷に来ていた。それなのに体は暑くて、だるくて、視界がぼやけて。他者が己の身体に触れたところで、ようやく私は熱にあてられていたことに気がつけた。
病は気からというもので、それに気付くと身体は一気に力が抜ける。そういえば最後に水を飲んだってのいつだっけ。

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