【d!】8月32日【合作】 (ページ23)

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放り出した手を彼はそっと撫でる。恐る恐る、掴んでもいいのか悩む様な距離感を焦れったく思う。早く、この手を掴んで欲しいと目で訴えれば、彼は微かに唇を震わせながらゆっくりと開いた。

「……本当に？」
「うん。」
「ほんっとに、もう！」

　頭をぐしゃぐしゃっと掻き乱して、それから彼は軽く額へとキスを落とした。そして、私の左手を取り、唇で触れる。そして、指輪の日焼け跡が残る指ををがぶりと食んだ。唐突な痛みに驚いたものの、かつてそこにあったのを上書きする様な噛み跡に何か満たされた気分になった。

「僕も、後から行くから。だから、待っててください。」
「そう。分かった。」
「堕ちるなら、どこまでも一緒に堕ちましょう。」

　その言葉を最後に、私は息苦しさの中に身を沈めた。首を絞められて苦しいのか、舌をねじ込まれて苦しいのか分からない。でも、ただ幸せなんだ。こんなにも満たされている時間を過ごせたことがあっただろうか。彼の愛にきちんと向き合っていれば、もう少し異なっていたのではないだろうか。でも、今更悔やんでも仕方ない。彼にそう望んでしまったのは私だ。ただ、願わくば、あの水ようかんを1口だけでも食べたい。彼が私のことを想ったものの味を知りたいから。でも、もうなんでもいい。彼の好きに流されればいい。

「あ、りがと。」
「そんなこと、言わないでくださいよ。」
「ふふっ、ひどいかお。」

　彼の瞳から零れ落ちる涙が私の頬を濡らす。一緒に死のうって言ったのはあなたなのに、なんでそんな顔するんだろう。まるで、私に死んでほしくないって言ってるみたいじゃないか。でも、彼のそんな酷い顔は初めて見た。酷く、可愛らしい。くすりと、自然に笑みが零れ落ちた。
　もっと、早く気が付けばよかった。彼は、こんなにも私を愛してくれるのだから。もっともっと、私を愛して。たくさん欠けてしまったのだから、私を満たして、包み込んで。そのまんま、私を堕ちるところまで墜として。一緒に死のうと言ったのはあなたなのだから。早く、早く、私を追いかけて。そうすれば、私もあなたの愛に答えられるかもしれないから。