【d!】8月32日【合作】 (ページ19)

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キッチンでお代わりの用意をする彼をボーッと見送っていると、ふと棚に乱雑に置かれたゲームカセットのケースが目に入る。確か、彼が好きだと言っていたゲームであったように思う。続編だろうか？

「……相変わらずゲームはしてるの？」
「はは…もう生活の一部ですよ。ちゃんと休みの日には外に出かけてますけどね。」
「ふふっ、それならよかった。それ、パケモンの最新作だよね。」
「あっ、そうですそうです。最近結構やり込んでまして…先輩はやってらっしゃるんですか？」
「ううん、そんな暇がなくて。CMとかでやってて気になってはいるけどね。」
「まぁそうですよね～ましてや1人で。」

どうぞ、と麦茶のお代わりを私の前に置く。そして、中の氷がカラリと心地の良い音を立てた。彼が私の前へと座った。彼の近況は、仕事が忙しいだとかゲーム友達の愚痴(といいつつ楽しそう)だとか、大学を卒業して彼も社会人になったのだと感じさせられるものだった。忙しくなったものの、彼は相変わらずといったところで安心する。うんうんと話を聞いていれば、急に彼は黙りこくってしまった。そして、暫くコップを触ったり触らなかったり、視線を彷徨わせたりと落ち着きを失う。それから、意を決したように口を開いた。

「先輩は、その……どうしたんですか。何かあったんですか？」
「あはは……えっとね。そうだね。」
「聞いても、いいですか？」
「誰にも言わないで欲しいのだけれど。」
「えぇ、いいですよ。」
「実はね……」

　彼の事だ、私からのメッセージが来た時点であらかた察しはついていたかもしれない。それが、確信へと結びついた顔をした。外された左手の指輪に、傍から見て分かる程に傷心の顔をしているのだから仕方がない。
　気が付けば、私は彼に事の経緯を話していた。夫に長い間暴力を受けていた事、財産を持ち出されて賭博に費やされていた事、愛していた夫に裏切られた事……こんな事言うつもりがなかったのに、ひとつ話したらとめどなく溢れるように言葉が出てくる。でも、私は至って冷静であって、私の身に起こった事実をただ彼の前に並べていた。チーノは、その間ずっと黙って私を見つめている。いつもの胡散臭い笑顔はすっと消え去り、何を考えているのか分からない顔をしていた。

「……そんなことが。」
「うん、証拠を集めれば裁判で勝てると思うし、慰謝料だって請求できると思う。だから大丈夫なんだけど。でもね、だめなの。」
「だめ？」