【d!】8月32日【合作】 (ページ13)

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目の前に幽霊が居る。

「ねーぇー、本当に私のこと何も分からない？」
「知らん言うとるやん」
「私は君のこと結構分かるのになぁー」

盆の時期に実家に帰省したらこれだ。霊感なんて無いはずなのにどうなってる。
あれから無事実家には着いたものの、この幽霊は俺以外には見えないらしく、家族は「なんのこっちゃ？」という顔をされた。帰省で久々に帰ってきた息子が虚無に向かって喋りかける姿を見せる訳にもいかないので、思ったより騒々しいこいつを静かにさせるために外に出ていた。相変わらずの茹だるような暑さで、母にせめて被って行けと渡された帽子が無ければジリジリと焼かれ続け、本当に脳味噌が終わっていたかもしれない。

「まず、名前は桃瀬豚平。あだ名はトントンで、今は19歳の大学一年生。今まで女の子と付き合ったことが無くてそれをよく友達にイジられてる」
「え？いやいやいや何で知っとるねん、怖っ」
「涼しくなった？」
「家におる方がよっぽど涼しいわ」
「その割に帰んないんだね」
「家族に頭おかしいヤツやと思われんのもアレやし……」
「なぁんだ、てっきり」

私と二人っきりになろうとしたのかと思った、なんて。足がないのに律儀に地に足ついて歩く幽霊は、不意にふわりと浮かんでそんなことを言った。

「それで、ここは通学路」
「…………」
「ではなくて、通ってた塾への道」
「ほんまどこまで知っとるねん……」

暑さに耐えかねて溶けたアイスの雫が舗装されたアスファルトに落ちたが、目で追う余裕も無かった。

「あっちの路地裏、影になってて涼しそうだよ」

幽霊が指した先には、いかにも寂れた路地裏と言う様な建造物の隙間があった。しかし、涼しい以前に川を挟んだ向こうにあるので遠くて行く気にはなれなかった。数秒眺めた後に返事もせずまた元の方向へ足を進めた。
だからそこにある色鮮やかな何かを確認できなかった。

「アイス美味しい？」
「まぁ」
「私にもちょーだいよ」

横でわざとらしく大きな口を開けている幽霊は、目まで瞑ってこちらが差し出すのを待っている姿は、餌を待つ雛鳥の様だった。

「すり抜けるんやし食えんやろ」
「じゃあお供え物にして」
「どこの墓やねん……」
「別にあそこでいいのに」
「は？」

気にしないで、と先を行った幽霊の顔は、西日が影を落としていてよく見えなかった。

「……てか、溶けるやろ」
「そういうのは気持ちが大事なの！」