【d!】8月32日【合作】 (ページ12)

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「あの……邪魔やしどいてもろて……」
「幽霊だからすり抜けますけど」

もうすっかり拗ねた様相の幽霊(仮)は、一歩も動かないつもりらしい。幽霊はすり抜ける、なるほど。まぁこんな時に冗談でも幽霊などと言って邪魔してくるだけの人間、という訳ではないだろうしと、そのまま素通りする、しようとした。

「……ッ！？」

広い帽子の"つば"に身体が触れた瞬間、悪寒に体を支配される。先程の暑さから来る汗ではなく、体調が悪い時に出るような、体の芯まで冷えて震えるような脂汗が噴き出て、噴き出た肌が閉じて。真夏の炎天下で寒さに震えた。
反射で仰け反ったら荷物の制御が効かなくなり、そのまま道端に思い切り尻餅をついた。それでも衝撃より寒さが勝っていた。

「まぁ、すり抜けても平気とは言ってないからね」

目線の低くなった俺を見下ろして微笑む幽霊は、いかにも夏という格好のくせに、汗をかいても、頬を赤く染めてすらもいなかった。

「クソが……何やもう……」

立ち上がり、荷物と尻の砂埃を払う。荷物も俺自身も、すぐ横の田んぼに落ちなかっただけマシなのだろうか。顬を伝う汗の流れをやけにはっきり感じて額ごと手の甲で拭った。

「お盆が終わるまでこっちいるの？」
「そうですけど……」
「じゃあ一緒にいられるね」

……取り憑く、という宣言なのだろうか。
でも俺は、触れない程度に近付いてこちらを見上げる、オタクが描く夏の幻想を具現化した少女を知らない。その微笑が世間一般で言う可愛らしさや愛らしさというものを備え持っていても、その白い四肢が陽に当たって眩くても、俺の頭の中にこんな印象を与えた女の記憶は無かった。