暑い、呪い。(tn) ページ11
茹で上がりそうだ。
整備されていない畦道を歩く男の上背は高く、体の幅も広い。そんな大きな体の至る所から汗が流れては染みを作る。日差しをよく吸収する黒い頭は触れたら火傷しそうな程に熱を持っていたが、生憎日除けになるような物は手元に無かった。その上、両手と背が塞がる程に多くの荷物を抱えての道だ。目的地まであと少し、と理解は出来ても思うように歩は進まない。のろのろと急いでいれば、傍らを跳ねていたはずの蛙の姿が随分と遠くに行っていた。
こんな事になるなら、面倒臭がらずに迎えを頼むべきだった。だが、軽トラの荷台に乗せてやると電話越しに言う父の誘いを断ったのは自分だ。今更たかが往復10分もしない場所まで呼び寄せるのは、己の妙なプライドが許さなかった。しかも田畑に挟まれたこの道路は狭い、Uターンするために無駄にガソリンを使うことになる。
数秒だけ目元に力を込める、瞼越しの陽がギラギラ光って、フッと消えた。瞳を空気に晒す。
「やっぱ、歩いてくか……」
「あ、やっほー!元気してた?」
「は?」
目の前に誰かいる。
「まぁ、ここに来てるってことは元気なんだろうね!」
「……いや、誰?」
女だ。髪の長い女。黒い髪だ。大きな麦わら帽子。白い服。ワンピ一スか。
「え、私幽霊なんだけど。もっとこう、驚かないかなぁ?」
ゆっくりと視線を上から下に移していくと、風で緩やかな皺を作るワンピ一スの裾から覗く脚は、膝から下が透けていた。
「というか、"誰"って……ひどいなぁ、覚えてないんだ」
「いや、覚えてない以前に…」
俺に膝から下が透けた知り合いはいないんやけど、と続ければ、仮定見知らぬ幽霊は、多分顔をくしゃりと歪ませた。
多分というのは、俯いた拍子につばの広い麦わら帽に隠れて見えなくなったから推測だ。
驚くとか以前に、暑くて死にそうだった。
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作者名:素敵な夏 x他3人 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home
作成日時:2023年9月3日 0時