【d!】8月32日【合作】 (ページ2)

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給湯室で、踊り場で、コピー機の前で。
心が耐え切れずただただ静かに泣いている彼女に寄り添い、「大丈夫やから」「そんなに泣いたら可愛い顔が台無しやで」「俺は、俺だけはAの味方やから」「ああ、うん、うん……大丈夫、俺も愛してんで」と優しく穏やかに、まるで幼子をあやす様に背中を撫でながら微笑む彼。
さらりとした艶のある黒髪にレンズ越しでも光り輝いている宝石の様な紅玉の瞳、すらりとした長身に整った顔立ち。
同じ会社にいるというのに彼女の傍にいる彼を見掛けた時に初めて存在を認識しました。
僕は彼女と仲が良かったのですが部署は違いましたので、部署が違えば見た事がないのもままある事かと一度は納得しました。
しかし、あんなに端正な顔立ちをしているなら噂の一つにでもなりそうなのになとも思ったのです。
けれどもそんな噂など聞いた事がありませんでした、胸に小さな引っ掛かりが出来てはいましたが、密かに彼女に憧れていた僕は、僕の知らない間に彼女が誰かのものになっていたのが自分勝手ながら悲しく辛く、考える事を半ば強制的にやめてしまったのです。
大丈夫、あんなに素敵な恋人が居るのなら、彼女はその内元に戻るだろう。
元気になって、また明るく愛らしい笑みを浮かべてくれるに違いない。

夏が終わり暫くして、彼女は会社の3階から飛び降りました。

『もう許してよ！！！！』といきなり悲鳴にも似た叫び声を上げ会社の窓を開けると、なんの迷いもなく(まるで何かから逃げる様に)外へと飛び立っていったと、近くにいた同じ部署の女性社員から聞きました。
彼女は小さく痙攣をしながら口からこぽこぽと血を吐いていたらしいのですがまだ辛うじて息はあり、直ぐに救急車を呼んでタンカーに乗せられていました。
話を聞いて僕が駆け付けた時には、救急車の周りに人集りが出来ており、その隙間からタンカーに乗せられた彼女が救急車の中に入っていくのが見えました。
そしてその傍には、やはり恋人の彼が立っていました。
彼の背中しか視認することは出来ませんでしたが、きっと酷く歯痒く悔しく、そして心配していることでしょう。
彼の気持ちを思うとこちらの胸が締め付けられるようでしたが、彼がいるなら彼女は大丈夫だろうと根拠のない安堵感に直ぐに包まれました。
僕の隣にちょうど、彼女と同じ部署の同年代くらいの女性社員がいたので、僕は何気なく声を掛けたのです。