【d!】8月32日【合作】 (ページ1)

今日:23 hit、昨日:3 hit、合計:8,164 hit

ころしにくる。(tn) ページ1

※ホラー要素あり

僕には、仲の良い同僚がいました。
可愛らしくて一生懸命で、明るくて笑顔の絶えないとても優しい同僚でした。
一緒によく飲みに行って、僕の取り留めのない愚痴にも文句一つ言わず励まし慰め一緒に頑張ろう！とエールを送ってくれていたのです。

彼女の様子が可笑しくなったのは、じりじりとした暑さで足を止めていても汗ばんでくる様な夏の始まりのことでした。
『通勤途中にマンションの2階から花瓶が落ちてきた』『ファストフード店の看板のネジが老朽化により折れて、歩いていた真後ろに落ちてきた』『誰かに突き飛ばされて道路に飛び出し車に轢かれかけた』『歩道橋の階段を上がっていると後ろから誰かに肩を掴まれ強い力で引き寄せられて危うく下まで転げ落ちる所だった』
毎日毎日、彼女は命の危機に晒され間一髪の所で命拾いしていたのです。
最初こそ恐ろしい偶然だと思っていた彼女でしたが、それが連日続き剰え自分の命をつけ狙う誰かの存在も認識することが出来ない恐怖に怯え、段々と彼女の正気を削ってゆきました。
2週間を過ぎると社内で突然悲鳴を上げたり、泣き出したり、誰かが自分に話し掛けてくる、自分は殺される、誰かが殺しにくる、と譫言を繰り返す様になりました。
あんなにみんなに好かれていた天使の様な彼女は見る影もなく、彼女の傍には人が寄り付かなくなりました。
かく言う僕も、彼女が感じる恐怖をそして闇を抱えてあげられる自信も受け入れてあげる自信もなく離れてしまった薄情者の一人です。
彼女が狂っていく様を、遠巻きで見つめることしか出来なかった臆病者なのです。

しかしそんな彼女を、人目も気にせず傍で支えてあげている男性が一人だけ居たのです。