僕は彼女を知らない【降谷零】

萩原研二は知らない ページ16

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御坂 Aという女は強くて脆い。



これは俺達が出した結論だ。

武術においては完璧、最強。
頭脳においても常にトップを取り続けるエリート。

ただ、
たったひとつ、欠点をあげるとすればそれは心。そこの部分が少し欠落しているということ。


精神力がないという訳では無い。
逆に精神力は強いし、忍耐力もある方だと思う。

ただ、そんな最強。完璧。そんなレッテルを貼られ、自分でもそれを自覚し抱え込む。
そしてそれが溢れ出した時、唯一、欠落している所が弱みになってしまう。


俺は見てしまった。
涙こそ出してはいなかったが、きっとあの顔は誰も、見たことがない顔だったんだと思う。

"絶望"

"喪失感"

そう例えればいいのだろうか。
あまり、下手に声をかけない方がいい。
御坂にはあまり励ましの声は響かない。
何故ならできることが当たり前だったりするからだ。


近くの自販機でブラックのコーヒーを二つ買って、そのうちの一つを御坂の首元に当てる。


｢…萩原｣

｢はい、お疲れ様｣

｢ありがとう…｣


ごくり、と飲めばコーヒーの苦味が広がる。
やっぱり微糖にすればよかったか？


｢…苦い｣

｢微糖の方が良かったか？｣

｢…いや、これくらいが丁度いい、かも。ありがとう萩原。｣

｢…おう｣



たまには甘くしてもいいのに、
甘えて、頼ってもいいのに、なんて言葉はコーヒーと一緒に飲みこんで。

俺は御坂 Aという女をまだ知らない。
でも、別に知らなくてもいいのかもしれない。
ただ一緒にいるだけで御坂が笑顔になるならそれでいいのかもな。

クサイセリフだなと甘ったるいこの変な感情に苦いコーヒーを流し込んだ。

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