▽ 夏休みのデート ページ7
少し早めに着いた駅前。夏の暑さと緊張が相まって、頭が真っ白になる。とりあえず落ち着いて、一旦夏祭りの事は忘れよう。忘れろ忘れろ……。
「A？ 早いね」
「ふぁいっ！」
後ろから声を掛けられて思わず飛び上がる。振り向くと、口元に手を当てて肩を震わせる風磨くんがいた。
「風磨くん……！」
「いや、驚き過ぎ……」
風磨くんがなかなか笑うのを止めてくれない。「ふぁい！ だって……んひひ」と真似までしてくる。
「だって急に後ろから話し掛けてくるから！」
「普通に声掛けただけじゃん」
「驚いたんです！」
「んはは！ ごめんって」
ごめんこめんと謝りながらも風磨くんはしばらく笑ったままだった。恥ずかしくて赤くなった私の顔を見て更に笑う始末。
「ねぇ！」
「ごめんってば。お待たせ、行こう」
思わず睨むとようやく風磨くんが肩を震わせるのをやめた。くしゃりと目を細めたまま、私の手を掴んで歩き出す。
「え、」
「一応２つ目星付けてんだけど、他に行きたいとこある？」
「いや……ごめん、探してなかった」
「いーよ、俺が誘ったんだから。言ったじゃん、カッコつけさせてって」
ちらりとこちらを振り返った風磨くんと目が合った。心臓がばくりと跳ねて息が詰まる。やっぱり意識しないなんて無理だ。あっという間に夏祭りの夜を思い起こさせる。
私の心中に気付いているのかいないのか、風磨くんは黙ったままゆっくりと歩いて行く。しばらく歩いて辿り着いたのは、落ち着いた雰囲気のカフェだった。
「今日のオススメはバスクチーズケーキだって。好き？ バスクチーズ」
「へ。は、うん。好き、バスクチーズケーキ」
好き、にぴくりと肩が跳ねてしまい、そろそろと視線をずらす。向かいに座る風磨くんが、にまりと嬉しそうに口角を上げたのが見えた。
「ふ、ふふ。んじゃ決まり？」
「う、いやでも待って、ガトーショコラも美味しそうだな」
慌ててメニューを覗き込む。バスクチーズケーキ、ガトーショコラ、フルーツタルト。全部美味しそうだ。メニューの写真のケーキが輝いている。
悩んで悩んでバスクチーズケーキに決めると、風磨くんが店員さんを呼んでくれた。私はバスクチーズケーキとカフェラテを、風磨くんはガトーショコラとメロンソーダを頼んだ。
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