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不意に飛び込んできた声に振り向くと、3人組の女の子がテーブル横の通路に立っていた。リボンの柄は中島くんのネクタイと同じもので、同じ高校の人なんだと分かる。
「久しぶり! 帰って来たの?」
「おー、久しぶり。ちょっとね」
「てか制服違うじゃん! 変な感じー」
「もう3ヶ月くらい経ってるから」
ポニーテールの活発そうな女の子と風磨くんが慣れた調子で会話を交わしている。風磨くんの受け答えは今のクラスメイトとの会話とそう変わらないのに、なんだか少し違和感を感じる。ぽんぽんと出てくる知らない人の名前に、楽しそうに笑う風磨くん。気まずくて必死に気配を消していると、ポニーテールの女の子と目があってしまった。
「……てか、もしかして彼女さん?」
おそるおそる、といった感じで尋ねられ、「どうも……」と頷いた。とても気まずい。明るく挨拶するにはタイミングを逃してしまった。
「そう、俺の彼女」
「えーっ! 風磨やるじゃん!」
「つーか長いしうるせえ! 今デート中なの!」
3人組の冷やかしに笑いながらそう言った風磨くんは、しっしっ、と犬を追い払うように手を振った。「じゃーねー」と最後まで明るいポニーテールの女の子に、返事代わりに片手を挙げた風磨くんは申し訳なさそうにこちらを見る。
「ごめん、気まずかったでしょ」
「ううん。私もごめんね、上手く話に入れたら良かったんだけど」
「いや俺が……、や、もうこの話終わりね。A、もうちょっと付き合ってくれない?」
キリがないと思ったのか、話を切り替えた風磨くんにもちろん、と頷いた。せっかく授業が早く終わって遠出してきたのだ。帰るのはまだ早い。
・
風磨くんが連れて行ってくれたのは、転校前によく訪れたという思い出の場所達だった。お気に入りのパスタ屋さんにカレー屋さん、カラオケ。ご飯は食べられそうになかったから入らなかったけど、カラオケはちょっとだけ歌おうよ、と中に入った。風磨くんは歌も上手かった。CD出せるんじゃないかな。
1時間半ほど歌って外に出ると、夕焼けが見えた。明日は土曜日だから遅くなっても大丈夫だけど、電車に揺られる時間のことを考えたらそろそろ帰らないといけない。けど、やっぱりまだ帰るには惜しくて。ちらりと風磨くんを見上げると、ぱちりと目があった。
「……最後にもう一箇所だけ、良い?」
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