▽ ページ32
「あ、来たわ」
ぽつりと風磨くんが呟いて、合図するようにひょいと片手を挙げた。視線を辿ると、風磨くんに負けないくらい背が高くて、あと足も長くて、まるで少女漫画から抜け出して来たような男の子がこちらに向かっている。
「菊池! 久しぶり!」
顔までイケメンのその男の子は、風磨くんを見ると嬉しそうにくしゃりと笑って駆け寄って来た。肩を抱かれた風磨くんは、まんざらでもなさそうに照れ笑いをしている。
「元気か!? 変わんないな!」
「元気元気。そんなすぐに変わんないから」
ばんばんと風磨くんがされるがままに背中を叩かれている。ていうか、やっぱり私要らなくない? 見えてる? と尋ねたくなるくらいには、中島と呼ばれた男の子が嬉しそうに風磨くんに話しかけていた。口ぶりから、引っ越してから初めて会ったみたいだし、もう少し2人の時間を過ごしてもらったほうがいいかな。
「……中島、この子がA」
「あ! 初めまして。菊池の友人の中島健人です」
「初めまして……葉月Aです」
穏やかに見守っていたら、唐突にそう紹介されてしまった。中島くんは、少し背を屈めると丁寧な口調でそう名乗ってくれる。仕草もなんだか上品で、思わず見惚れてしまった。
「菊池の彼女さんに会ってみたかったんだよね! 漫画読むって聞いて!」
「あ、そこ?」
会いたい理由がちょっと意外だった。風磨くんは先に聞いていたからか、仏のような温かい表情で中島くんを見守っている。
「ちょっとお茶しながら話さない?」
・
風磨くんのお友達の中島くんは、ちょっと変わってるけど面白い人だった。
最初は転校前の風磨くんとの話をしていたのに、そのうちに今連載中の漫画の話になった。気付いたら中島くんが一番大好きな漫画の話になり、そこからは中島くんの話を風磨くんと2人で聞く時間となった。遊戯王とブルーアイズへの愛を思う存分話してくれた中島くんは、
「そろそろ塾の時間だ。それじゃあまた話そうね」
と優雅に笑うと、颯爽とカフェを出て行った。残された私と風磨くんは、その背中をぼんやりと見送る。
「愉快な人だね」
「ふは、そうでしょ」
私の感想を聞いて楽しそうに笑った風磨くんは、柔らかい表情のままこちらを覗き込んだ。
「あのさ、まだ時間ある? 行きたい所あるんだけど、」
「──あれ? 風磨じゃん!」
354人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ