▽ ページ4
「疲れたー」
先生がくれたジュースを飲みながら、風磨くんが息を吐いた。真夏とはいえ、19時前になると薄暗くなっている。
部活帰りの生徒や社会人がいっぱいいる駅のホーム。私と風磨くんは、人混みを避けるように無意識に端っこまで歩いていた。
「てかなんで先生は今まで文化祭のこと忘れてたの? あの人本当に大丈夫?」
「あのタイミングで思い出さなかったらどうするつもりだったんだろうねぇ……」
本来なら5月くらいから準備していくはずの文化祭準備を1ヶ月ほどで進めて行くことになって、クラスの負担は大きい。みんなの仕事量の調整なんかも結構気を使う作業で、ついついそういったことは風磨くんに頼ってしまう。
二宮先生もさすがに申し訳ないと思っているのか、ちょこちょこ差し入れをくれるけど、それはそれというか。
7月の修了式で実行委員を決めるなんてことになってたら、と考えてぞっとした。1〜2週間とはいえ大きい。ていうかなんで私が実行委員してるんだろ……等々。ぐるぐると考えてしまってため息をついていると、ドン、と肩に人がぶつかった。
「いて、」
「A。大丈夫?」
気を抜いていたから思わずふらついてしまった私の腕を風磨くんが掴む。すっと引き寄せられて、近くなった距離に思わず息を飲んだ。
「ちゃんと前見て歩けばいーのに。……大丈夫? 痛くない?」
「いたくない……大丈夫」
ぶつかっていったらしいおじさんの背中を見ていた風磨くんが私の顔を覗き込む。さらり、揺れる前髪とその奥の黒い瞳をじっと見つめていると、風磨くんがふいと視線を逸らした。
「痛くないなら、良かった」
「うん」
少し離れた距離と、けれど未だに掴まれたままの腕と。ばくばくとうるさく跳ねる心臓を沈めようと深呼吸していたら、「A?」と後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「……勝利?」
「こんな時間まで珍しいね?」
振り向くと、陸上部の大きな鞄を持った勝利が立っている。一歩こちらに近付いた勝利は、風磨くんに掴まれたままの腕に視線をやると「……どしたの?」と首を傾げた。
「いや、人とぶつかってよろけちゃってね。というか勝利! ここ学校の最寄駅なんだけど」
「大丈夫じゃない? こっち側に人いないし。菊池くんもいるし。Aが大声出さなければ」
「そういう油断は良くないと思うんだけどなあ」
私と勝利のやりとりに、風磨くんがふふ、と笑った。
354人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「菊池風磨」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ