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バタバタとこちらに走ってきたのは、カフェでバイトしてるから、と接客の練習や方法を考えてくれていた女の子だった。焦った表情を浮かべた彼女は、向かいに座る私を見ると一瞬気まずそうな顔をした。「ちょっと来て!」と強引に風磨くんを立たせると、そのまま廊下へと連れて行く。
なんだか、嫌な予感がする。中学の時のことを思い出した。勝利の人気が出てきて、友達だと思っていた子たちから妬まれるようになった、あの時期。
風磨くんと女の子が教室に入ってくる。俯いたままの風磨くんは、そのまま私の向かいへ座った。「何の話だったの?」と聞くと、「……んー、」と風磨くんが誤魔化すように返事をする。
「この前さ、階段で絡まれたの覚えてる?」
「うん」
「……なんかね、トイレで聞こえてきたんだって。うちのクラスの看板にペンキ塗ってきた、葉月さんへの仕返しだ、って」
「なにそれ……」
ほら、やっぱり。嫌な予感が的中してしまった。全く、なんてしょうもない理由なんだろう。私が嫌いなら私だけに嫌がらせをしたらいいのに。私のせいで、クラスの皆に迷惑をかけてしまった。
風磨くんの顔が見れなくて、思わず手で顔を覆った。悲しい、悔しい。勝利と私が幼馴染なことはそんなに悪いことか。簡単に舐められる自分が腹ただしい。
「……ムカつく」
「え?」
ぼそりと呟くと、目の前の風磨くんが少し驚いた表情でこちらを見た。丸くなった目を正面から見返す。
「だって私悪くないじゃん。たまたま勝利と向かいの家で仲良くなっただけだし付き合ってないしなんで勝利が彼女作らないのかなんて知らないし! イライラしてきた!」
「……Aさん?」
「絶対見返す。泣き寝入りなんてしてやらない。全校一位取ろう」
バン、と机を叩いて立ち上がれば、驚いた表情の風磨くんがあんぐりと私を見上げる。しんと静まり返った教室にようやく我に帰った。
「……あ、」
「あはははは! A最高! そうしよう、見返してやろう」
「取るなら一位だよなぁ」
大笑いし出した風磨くんに、話を聞いていたのか樹くんもにやにや笑っている。というか、皆聞いてたんだろう、教室にいる全員がこちらを見て頷いていた。「葉月の為にもやるぞ!」「なんかよく分かんないけどやる気出て来た!」と、盛り上がっている。
「Aやったじゃん」
予想外の展開に戸惑う私に、風磨くんがにっこりと笑いかけた。
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