▽ 実行委員 ページ1
「実行委員さん、これ頼む!」
「あい……」
パンパンに膨らんだレジ袋を下げたクラスメイトが、そう言って私にレシートを差し出した。私の机にまた一枚白い紙が増える。
散らばる大量のレシートに思わず天井を仰いだ。捌いても捌いても減らない。数学が嫌いな私にこの仕打ちはあんまりじゃないのか。
「A出来た? 提出今日だけど」
「出来てない……もう無理……」
黒板の前で教室のレイアウトについて話し合っていた風磨くんがひょこりとこちらにやって来る。風磨くんの言葉に首を振っていると、「こりゃ駄目だ。凪沙さーん、ヘルプ!」と彼が教室の後ろの方へ叫んだ。
「おら頑張れ! 文化祭の実行委員になっちゃったんだから」
「風磨くんのせいじゃん!?」
楽しそうな表情でパンパンと手を叩く風磨くんに思わず叫んでしまう。んはは、と笑う風磨くんと頭を抱える私を、手伝いに来てくれた凪沙が呆れた表情で眺めていた。
どうして私が文化祭実行委員なんかになっているのか。それは、夏休みが始まる前に遡る。
・
「採点の訂正の申し出とかない? これ以降は受け付けないからね。
……じゃあ、残りの時間で文化祭の実行委員決めます。うちのクラス決めるの忘れてたんだよね」
ガサガサと試験の解答用紙を袋に入れた二宮先生は、相変わらずの気だるげな表情でそう言った。
期末試験が終わって最初の数学の授業。答案用紙の返却を解説を済ませ、上の空状態だった教室がざわめく。
「文化祭は夏休み明けだから、実行委員には色々頑張ってもらわないと駄目なんだけど。誰かなって良いよーって人いない?」
さらりと先生がそう言う。さらりと言ったけれど、結構やばいのでは? うちのクラス何するとかも決まってなかったはず。
しかも、もうすぐ夏休みに入っちゃうから準備期間は短い。部活や補講も無いのに学校に出て来るなんて面倒だし。間違いなくやっかいだと分かる案件に、教室内が探り合いの気配を出した。誰が犠牲になる?
「……文化祭ってどんなの?」
隣の席の風磨くんが小声でそう尋ねてきた。そうか、風磨くんは初めてか。小声でも聞こえるように、身体を寄せて返事をする。
「結構大きいよ。飲食の出し物も出来て、売上とか満足度が1位のクラスは表彰されたり。学校の外の人も気軽に来れるし」
「ふーん」
頷いた風磨くんが、がしりと私の手を掴んだ。そのまま垂直に上に挙がる。
「実行委員、やります」
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