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「実行委員でバタバタしてたからあんまりAと話せなかったのは残念だけど。
覚えてる？ ラーメン行こうって言ってたの」
「あれ、焼肉じゃなかったっけ」
カフェに出すメニューの試作を食べさせてもらった時。甘いものに飽きた風磨くんがラーメンだか焼肉だか、がっつりした食べ物が食べたいと言っていた気がする。
「んは、Aが焼肉食いたいなら焼肉行こうか」
「えっ！？ 私！？」
さりげなく、私が焼肉を食べたいから、という言い方にされてしまい思わず風磨くんを見上げてしまう。目が合った風磨くんは、目を細めて「ふふ」と楽しそうに笑った。
「何でもいいよ、Aと食えるなら」
見つめられながらそう言われて、カッと顔に熱が集まったのが分かった。慌てて視線を逸らす私に、風磨くんは気にした様子なく言葉を続ける。
「文化祭終わったら俺とデートして」
「……デート」
「うん、デート。で、そん時に返事くれる？ 夏祭りの返事」
それで最後にする。
風磨くんは静かにそう呟くと、丸められたクリアファイルで私の頭をぽん、と軽く叩いた。いつの間にか着いていた職員室に入っていく背中を見ながら、こんな距離で風磨くんと話せることはもうないのかもしれないと思った。
・
無事に家庭科室に着き、頼まれていたパンケーキの追加やらドリンクやらを受け取った帰り。
絶対に落とさない、と慎重に階段を登り終えた時、「葉月さん？」と後ろから声を掛けられた。
「はいっ」
「葉月さん、ですよね」
慌てて振り向くと、後ろに立っていたのは何度か見たことのある女の子。確か隣のクラスの、勝利と話している所を見たことがある。
「はい、葉月ですけど……」
「急にごめんなさい。私、3組の寒川です」
ぺこりと丁寧に頭を下げられて、私も慌てて頭を下げた。寒川さん。そういえば、ジャージにそんな名字が刺繍してあった気がする。
「葉月さんって」
「はい」
「佐藤くんと仲良いですよね？」
「へっ」
ガタンッ！
手の力が抜けて、ペットボトルの入ったクーラーボックスが落ちた。「パンケーキッ！」「大丈夫ですか！？」上に載せていたパンケーキの無事を確認するためにしゃがみ込んだ私に寒川さんも駆け寄ってくれる。
「すみません、急に」
「いや、私もごめんなさい……」
「でもやっぱり、仲良いですよね」
確信を得たように寒川さんが繰り返した。
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