夏色サイダー【Shori.S】 (ページ1)

今日:12 hit、昨日:0 hit、合計:29,349 hit

▼　幼馴染のはなしページ1

・

　いつから、と言われると分からない。気付いた時には一緒にいて、それが当たり前だった。

　向かいの家の、幼馴染のA。

　幼稚園も小学校も中学校も高校も同じ、昔から隣にいる女の子。

　算数が嫌いで国語が得意。高校に上がってもそれは変わらなくて、試験のたびに数学を教えてと家にやって来る。俺の集めてる漫画を読みに来てはベッドでうたた寝するし、俺のお母さんが作るカレーが好きでちゃっかり晩ご飯を食べることもよくある。『女子は怖いんだから学校では幼馴染ってこと内緒にして』って言うくせに、教科書貸してってLINEしてくるんだから自分勝手だよな。

　でも、Aがそんな風にワガママを言う相手も、悩み事が出来た時に一番に相談しに来るのも俺だけで。そのたびにくすぐったい気持ちになる。Aは気付いてないけれど、俺はずっとAのことが好きなんだ。

　昔から俺以外の男子と話すのは少し苦手だから俺の友達くらいしか男友達もいない。こんなこと本人に言ったら怒るだろうけど、彼氏はまだ出来ないだろうね。……まぁ、俺以外の誰かがその座に収まったら困るんだけどさ。

　一番近くにいれるのは幼馴染の特権だけど、もしこの距離でいられなくなったらと思うとまだ気持ちを伝える勇気が出ない。それでも、少しずつ俺を意識させて、いつか伝えられたらと思っている。

　……思っていたのだけど。

・

「俺、Aに告白したんで」

　初めてAじゃない相手と訪れた、地元の夏祭りの夜。

　久しぶりに会った中学の同級生と駅前のコンビニに寄った帰り、浴衣姿の転校生に会った。

　お祭りの途中、おそらく２人で来ていただろうA達とはすれ違わなかった。ちょっと遅めにお祭り会場へ行ったのは会いたくない思いがあったからだし、いつもAと回るお店もわざと外した。あの転校生に楽しそうに笑いかけるAを見たくなかった。

　転校生は俺を見つけると、ぺこりと頭を下げた。それに倣って俺も頭を下げると、何か思い出したような表情になった転校生は道の端に寄って俺を手招きした。行きたくない、嫌な予感がする。そう思いながらも転校生の近くに寄ると、そう言われたのだった。

「……なんで俺に言うんですか？」

「言っといた方がいいかなって。俺はちゃんと正々堂々と勝負したいんで」

　じゃ。涼しい顔をした転校生は、そう言って駅の方向へ歩いて行った。