夏色サイダー【Shori.S & Fuma.K】

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ぐいっと腕を引かれたと思ったら、シャワーみたいに全身に当たっていた雨が止んだ。

　見上げると、傘を持った風磨くんが「何やってんの！」とこちらを見つめている。


「こんな雨で傘ささないとかバカ！？ 風邪ひくだろ！」

「ご、ごめんなさい……傘忘れちゃって」

「そんなとこだろうとは思ったけどさー。びっくりしたぁ」


　はぁあ、と風磨くんが息を吐く。私はというと、それをポカンを見つめるしかない。


「風磨くん、補習は？」

「プリントだけもらって帰ってきた。前の学校の方が先進んでたし。二宮先生もパズドラしたそうだったし」

「パズドラ……」

「で、靴履き替えて傘さして帰ろうとしたら全力疾走するAを見つけたのよ。何やってんだと思いましたよね」

「お恥ずかしいところを……」


　思わず顔を覆うと、風磨くんがふっと笑う。見つけてくれたのはありがたいけれど、恥ずかしい。


「じゃあ帰るべ」

「え」

「ごめんけど俺傘これしか持ってないからこのまんまになるんだけど、いい？」

「え？」

「まぁ嫌って言われてもこのままなんだけどさ」

「いやじゃない、けど。風磨くんはいいの？」


　所謂相合傘状態。誤解を招いたりするのでは……いや、私相手でそんなことないか。

　焦る私に、風磨くんはえぇ？ と目を丸くした。「いいのって……逆にこの状態で置いていくのヤバくね？」と、面白そうに笑う。


「じゃあ、駅まで一緒に良いですか……ビニール傘買いますので」

「はい、かしこまりました。んじゃ行こう」


　優しく笑った風磨くんは、ずぶ濡れの私を隣にゆっくりと歩き出した。

　歩くペースはやっぱり私に合わせられていて、思わずいつもより近い横顔を見上げる。


「なに？」

「ローファーがぐちゅぐちゅ言ってて、気持ち悪い」

「んはは！ ずぶ濡れだもんなA。寒くない？」

「蒸し暑い……」

「分かるー」


　歩きながら話すのは他愛もないことだった。メルカリで買った教科書の落書きを探すのが最近のマイブームなのだとか、二宮先生はいつも気怠げだけど本気を出して可愛こぶるとめちゃくちゃかわいいのだとか(風磨くんは「何それ……」とドン引きしていた)、駅までの10分なんてあっという間で、ビニール傘を買って改札を潜れば電車はすぐにやって来た。


「Aがそんなにずぶ濡れじゃなかったら、途中で降りてもんじゃ行けたのにな」

「すみません」

「冗談だよ。帰ったら風呂入れよ？」

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