【d!】夏暁【短編】 (ページ12)

今日:4 hit、昨日:0 hit、合計:7,538 hit

傷もいつか消える_ut ページ12

幸せな結婚って、なんだろう。よく聞かれる結婚について私はいい返事が出来ない。失敗しない方法って何？って聞かれたら、心の中でそんなもの無いって答える。口に出して言う勇気がないから、そっと心の中で。

私は所謂玉の輿に乗った。たまたま参加した合コンで出会ったイケメンが、たまたま私の事を気に入ってくれた。その人が実はエリートサラリーマンで、何不自由ない暮らしを与えてくれると言ったから結婚した。

「俺の可愛いお嫁ちゃんは働かなくていいからね」
「え？でもそれは悪いよ」
「悪いことなんてないよ、ずっと家に居てくれれば何しててもいい」
「でも、それは……」
「ね、お願い」

タワーマンションの高層階、そこが私の鳥かごだった。

食べ物の味がしなくなったのはいつからだろう。見るもの全てが色褪せたのは、渇ききってしまったのはいつ？

「……ふぅ、ふぅ」
「や、抜かないで」
「漏れちゃうから、な」

彼が吐き出した欲は私の中から引きずり出され、無機質なモノの中で役目を全う出来ないまま閉じ込められる。慣れた手付きでそれを縛ってゴミ箱へ入れ、私の隣に寝転がった。

世界がまた輝きだしたのは、この隣に居る鬱くんと出会ったからだろう。街で宛もなくフラついていた私をナンパし、あっという間にこんな関係にしてしまった彼。旦那様とは真逆な彼に惹かれるのは時間の問題で、少しの風でも消えてしまいそうな危うい存在に私は心まで食べられてしまった。

。