こんな婚約者は願い下げです！【syp】

9話 ページ9

Aside

「ショッピさん、Aさんが痛がっていますよ。離してください」

涙が零れそうになった時、そんな言葉と共に少しだけ痛みが和らぐ。見ると、いつの間にか直ぐ傍に来ていたエーミールがショッピの腕を掴んでいた。

「あ、」

エーミールの言動で我に返ったのか、今度は焦ったように苦しそうに顔を歪めて、直ぐに掴んでいた手を離してくれた。

「すみません」
「……いえ、大丈夫です」

バツが悪そうに謝られて、全く大丈夫ではないがその場を取り繕うためにニコリと笑う。
無理矢理作った笑顔はきっと歪んでいて、レイカのような可愛らしい笑顔とは程遠い。


(醜いなあ……)

掴まれていた腕は熱を持っている。ほんのりと赤く跡がついていて、もう片方の手でまだヒリヒリと痛む部分をそっと包み込む。
情けなさと痛み、それから何かよく分からない感情でまたじわじわと涙が滲んだ。

「あー……、レイカ嬢、待たせてすみません。行きましょうか」
「え、あっ……、はい！大丈夫ですわ！それではエーミール様、Aさん、ご機嫌よう」

居てもたってもいられない様子のショッピはレイカを連れてそそくさと図書室を出て行く。
その場に取り残された私は婚約者の余りの冷たさに驚くことしか出来ない。
ほんの少しでも、こんな時ぐらいはレイカよりも私を気にかけてくれるんじゃないか、なんて淡い期待を抱いていた私が馬鹿みたいじゃないか。


「Aさん、大丈夫ですか？」
「あ、はい。えと……ありがとうございます、エーミール様」
「いえいえ、私も思わず出しゃばってしまって、すみません」

唖然としたままその場に突っ立っていると、エーミールが心配そうに顔を覗き込んでくる。
慌てて笑顔を取り繕ってお礼を言えば、エーミールは心底申し訳なさそうに眉を下げた。
出しゃばるどころか、エーミールには助けられてばかりだったと言うのにわざわざ謝罪をしてくるなんて、彼は何処まで優しい人柄なんだろう。
ショッピも、エーミールのように優しい人だったなら

(少しは、違ったのかな)


ふと頭に浮かんだ言葉は、私が言うには余りにも筋違いな言葉で。そんなこと、私が言えたことじゃない。私が、レイカさんのような人柄だったら少しは違ったのかな、なんて。
きっとショッピだって心の底からそれを思っているし、願っている。

私だって、そう思ってるのに。

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