検索窓
今日:4 hit、昨日:20 hit、合計:656,429 hit

35話 ページ35

Aside

『A、大丈夫よ』


熱に浮かされて、ぼんやりとした思考の中、思い出すのはいつも両親のことだった。

両親は私が幼い頃から私のために、必死に、底辺であろうとも貴族であろうとした。
毎日毎日執務室に篭って、外へ出かけて。仕事ばかりな両親が、唯一1日つきっきりで傍に居てくれたのが、決まって熱に浮かされた時だったから。



「……ちゃん、Aちゃん、起きて」

優しく体を揺らされて、ゆっくりと目を開けた。
視界はぼんやりとしていて、白しか見えない天井は落ち着かない。ツン、と鼻の奥を刺激する匂いに、ここが医務室であることに気づいた。


「ん……」

まだ頭はぼーっとするが、さっきまでよりは幾らか楽になった、気がする。
重い体を起こして、風邪のせいなのか、寝起きのせいなのか、まだぼやぼやとした目を擦った。

「Aちゃん、起きた?」

視界がクリアになるのを確認して辺りを見渡せば、眠っていたベッドの直ぐそこに神と書かれた布面を揺らす背の大きな男性が立っていた。この軍の軍医であるしんぺい神だ。


やばい、こんなに近くにいたのに、全く気が付いていなかった。
……体調のせいに、しておこうか。

はい、と返事をすると、しんぺい神はちょっと失礼するね、と言いながら前髪を掻き分けておでこに大きな手を当てた。熱くなったおでこに、ひんやりとした手が心地よい。

「んー、まだ熱いけど、行けなくもない、か……」

おでこに手を当てたまま、ぼそぼそと呟くしんぺい神。


彼は、幹部ではないが、時には総統であるグルッペンにも意見が出来るくらい凄い人。

グルッペンがこの国を立ち上げる時の初期メンバーの1人であるらしい。戦闘員では無いけれど普通に強いらしいし、幹部には慕われ時には恐れられ。
とにかく凄い人なのだ。




「あの、ご迷惑を……」
「あのね、Aちゃん」

お礼を言わなければと、口を開いた途端、先程までぼそぼそと独り言を言っていたしんぺい神が食い気味に話を遮ってくる。
何回か話したことはあるが、こんな風に彼が人の話を遮るのは珍しい、と思う。
恐る恐る彼をみれば、彼の表情は緊張したように、固くなっていた。



「は、い」

あまり剣幕に、思わず息を飲んだ。返事をした声は震えていたと思う。
心臓が大きく波打つ。ドクドクとうるさい心臓が、脳が、これはただ事ではないと言っている。




「大切な話があるんだ」

36話→←34話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (611 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1513人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

秋人(プロフ) - パスワード掛けても公開して下さってありがとう御座います。本当に好きなお話なのでうれしいです。作者様に無理のないように過ごして下さい。 (2022年3月12日 23時) (レス) id: 3a6567d6ac (このIDを非表示/違反報告)
よにん - 前に見かけてまた見たいと思っていてまた見れて嬉しいです。応援してます! (2020年6月24日 15時) (レス) id: 3491a11aac (このIDを非表示/違反報告)
鬼雷 - 初コメ失礼します!少し前に見つけてひっそりと応援しておりました!ストーリーが凄く好きで先が凄く気になります!作者様のペースで頑張ってください!更新されるのを楽しみにしてます!完結まで追いかけます!頑張ってください! (2020年6月24日 0時) (レス) id: 15f01a3427 (このIDを非表示/違反報告)
りんご飴(プロフ) - 茄子さん» 教えてくださりありがとうございます!!これからも頑張ってください!!他はもう素敵な話ばかりで読み入ります!もしもあったら聞かせてもらいます…! (2020年6月17日 19時) (レス) id: c59a6d75f0 (このIDを非表示/違反報告)
茄子(プロフ) - りんご飴さん» コメントありがとうございます!ありがとうございます!泣きます(;;) 手首を掴んだのはsypさんです!いえいえ、分かりづらかったかもしれません……。ごめんなさい(;;) 分からないところがあればジャンジャン聞いちゃってください!ありがとうございました(^_^) (2020年6月16日 20時) (レス) id: 8809630e87 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:茄子 | 作成日時:2020年4月6日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。