第24話 ページ24
｢A。｣
私の名前を呼ぶ声がする。
その声は酷く優しくて、いつまでも聞いていたい、暖かいものだった。
｢ある…はいぜん…？｣
ぱちぱちと重たい瞼を上げて、眩い光を吸い込んで目を開けた。
｢A。｣
目を開けた先で、真っ先に視界を彩ったのは、その不思議な虹彩だった。
緩く弧を描く瞳は柔らかく、蕩けていて、甘かった。
｢アルハイゼン…。｣
｢うん、俺だよ。｣
｢アルハイゼン…アルハイゼン、アルハイゼン…！｣
｢あぁ、ここに居る。｣
おいで、と言われて私は遂に涙が堪えきれなくて、彼に抱き着いた。
｢きゅ、急に居なくなるから！さみ、寂しかった…！｣
｢うん。｣
｢ある、はいぜんに、お別れ言えなかったの悔しかったし、モヤモヤした！｣
｢うん。｣
｢いけないことだって分かってたけど、アルハイゼンが居ないと、楽しくなくて、静かな生活で、苦しかった！｣
｢うん。｣
｢アルハイゼンに、会いたかった…！｣
｢うん、俺もだよ。｣
ゆったりと私の髪を撫でる手が私の頬に移された。
グイッと涙を拭かれると、クリアになった視界に彼の顔が映った。
｢A好きだ。もう君と離れたくない。受け入れてくれ。｣
｢うん、うん！私も、アルハイゼンとずっと一緒にいたい、私もアルハイゼンのこと大す、んっ。｣
ふと、彼の柔らかな唇が私に触れた。
チュッチュッと軽く触れ合うと直ぐに離れていった。
｢すまない、思わず感情が昂った。｣
｢ううん、嬉しかった。｣
｢ならいい。｣
｢所で、ここはテイワットなの？見たことない景色。｣
｢あぁ、君の想像通りここはテイワットのスメールだ。｣
それでここは教令院内部に存在している、秘密の部屋みたいなものだ。と説明して立ち上がった彼が持ってきたのは見慣れた服だった。
｢すまないが、ここから場所を移すにあたって、周りから要らぬ詮索を入れなれないようにこれに着替えて欲しい。｣
｢わ、すごい教令院の制服だ。しかも知論派だ。私が絶対入れない場所なんだけど。｣
｢そんなことはない、君は多種多様な言語を操ってただろう。｣
｢あれは日本人だと普通なんだよ。寧ろ少ない方だし。｣
｢ほう、日本人は勤勉なんだな。｣
｢そんなことないって。｣
｢まぁいい、俺はあちら側で待っているから着替えたら来てくれ。｣
そう言って彼は素早くその場から移動して姿を消すと、暫くして椅子を引く音が聞こえた。恐らく椅子に座って本でも読んでいるんだろう。
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作者名：やたお | 作成日時：2023年8月21日 0時
