第23話 ページ23
アルハイゼンが元の世界に帰ってから、暫く立った。
そう簡単に吹っ切れるものじゃなくて、今も引きずってはいるけれど、いつまでも凹んでいる訳にも行かないので、パキパキと仕事をして過ごしていた。
でも、ふとした時に彼のことを思い出して足を止めた。
そもそも、彼と私は本来なら交わらない関係だったのだ。
彼はゲームの中の住人、私は現実の世界の住人、それがふとした世界の縺れで出会ってしまっただけで、本当なら、一生画面の中の彼としか会うことが出来なかったのだ。
あの夢みたいな時間は、本来は与えられるものじゃなくて、特別な時間だったのだ。
しかし、その特別な時間を味わってしまったら、人間は欲張りだからもっと欲しくなってしまうじゃないか。
こんなことなら、彼と会わなければよかった。そんなことを嫌なのに考えてしまった。
｢はぁ…ただいま。｣
1人きりになった静かな部屋に声をかけた。もちろん誰からも返事は貰えるわけなくて、靴を脱いで冷たい廊下に足を着いた。
｢…原神、開いてないな。｣
あれから暫く経ったけど、私は原神が開けていなかった。
開いたら泣いてしまいそうだったから、そもそもアイコンを見ただけで泣いてしまいそうなのだ、消そうかとも思ったけど、今までゲームの中の彼と開拓していった思い出が消えるのは、嫌だったのだ。
それでも、ゲーム内の仲の良かったフレンドさんもいたし、心配をかけてしまっているかもとゲームを開く決意をしてアイコンをタップした。
｢わっ！眩し！｣
すると急にスマホの画面が白く発光して、私の視界をくらませた。
｢A。｣
ふと、アルハイゼンの声がした気がした。
｢アルハイゼン…？｣
｢A、手を取ってくれ。｣
手…？そんなもの、どこにも。
ふと手を伸ばすと、グッと力強く手が握られる、そして勢いよく引っ張られた。
｢うわっ！｣
そのまま重力に従うように落ちる感覚がして、私の視界はブラックアウトした。
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作者名：やたお | 作成日時：2023年8月21日 0時
