家に帰ったら推しに剣を向けられたんですが (ページ1)

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第1話ページ1

「疲れた…。」

じんわりと汗ばむこの季節、夜になっても変わらないこの暑さをうざったくも思いつつ、申し訳程度の抵抗に手で顔を扇ぐ。

ジリリリと夏の虫が鳴くのを音楽に、私の足取りは重く、だが確実に家に向かっていた。

今日は散々な1日だった。朝から後輩がやらかした大きなミスに気がついて慌てて修正をして、3日後の重要な会議のための資料をまとめていたらPCの電源が落ちて内容が全てパーに、やっとの思いで完成させて昼休憩に向かったら、

やけに触ってくるゴミ課長にバッタリ出くわして何の面白みもない話を永遠とされて、休憩に向かったはずなのに身も心も疲れ果てて、休憩時間が終わったのを理由に逃げて自身のデスクに戻ったら、恐らく上司が置いてったであろう身に覚えのない書類が積み重なってて、無心で捌いてたら終電の時間だった。

もう歩くのですら面倒臭いからタクシーでも呼ぼうかと思ったら財布の中身はスッカラカン、やってられなかった。汗でシャツはベチャベチャで早くお風呂に入りたいし、明日も仕事だから早く寝たい、やけに遠く感じる自宅がすこし苛立たしかった。

何やかんやで覚束無い足元で、その短い足を絡ませながら自宅へ到着する。ガサガサとカバンの中身を漁って鍵を取り出すと雑に突っ込んで玄関のドアを開けた。

「ただいうわっ！！！グッ！！！！！」

誰も居ないはずの室内に帰宅を知らせる言葉を送ろうとしたら、勢いよく胸ぐらを掴まれて壁に叩きつけられる。

カハッと呼吸が一瞬止まった。ズキズキと痛む背中に何事だと思い前を見ると、緑に輝く何かを向けられていることに気が付く。

「へ、へ？？え？？なん、え？？？？」

余りの状態に訳が分からず、疑問符しか浮かんでいない私に、目の前の人影は口を開いた。

「ここはどこで、君は一体何者だ。何の理由があって俺をここに連れてきた。」

その声は、やけに聞き覚えがあった。どこで聞いたんだ？と自分でも驚く危機感の無さで考え込んで黙っていると、この時間がうざったく感じたのか、大きく舌打ちをして恐らくナイフとかの刃物であろう何かを私の首筋に近付けてくる。

「早めに話した方が身のためだと思うが。」

そう言って私の顔を覗き込んだ男の顔に、私はもう見覚えしか無かった。そして確信した。

「…なんで、逆トリップなんてしてるんだ…この人…。」

その人は私の原神の中の推し、アルハイゼンその人だった。