ネタ置き場 (ページ10)

今日:34 hit、昨日:3 hit、合計:5,236 hit

記憶ページ10

A。と会ったことがないはずなのに、なんだか懐かしい、それでいて心臓がキュッとするような、そんな気持ちになる。

あれ、彼は、誰だっけ。

会ったことがない？いや、違う。会ったことがある。話したことがある。スメールシティで買い物だって、グランドバザールで踊りだって見た、一緒に食事に行ったり、論文を見せあったり、この記憶は。

たらりと汗が流れる。ドクドクと脈が早鐘を打つ。だとしたら、今、隣にいる彼は、私の彼氏なんかじゃ。

｢…あぁ、思い出したのか。｣

｢はっ…。｣

スっと隣の彼の目が細まる。先程までの不思議な輝きを放っていた瞳は、ドロドロとしていて、薄暗く、何処か恐ろしさを放っていた。

｢あ、なた、誰…？あなた、私の彼氏じゃ、会ったことない…。｣

｢誰…か…。先程まで、君の口から俺の名前が出ていたと記憶しているが、この数分で忘れてしまったのか？｣

｢ち、ちが。｣

｢はぁ…何度忘れさせても思い出す、実に不愉快だな。やはり1度まっさらに全てを忘れさせた方が効率的か。｣

｢なに、言って。｣

｢あぁ。何も恐れることは無い。痛みは感じることは無いからな。ただ、忘れてしまうだけだ。｣

そう言って笑った彼の顔は、今まで見たことのない、綺麗な笑顔だった。