拝啓、婚約者様【zm】 (ページ2)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:3,899 hit

1話ページ2

例えば、「死後の世界」なんてものがあればいい。

そんなことを生前、Aは常々思っていた。

「死後の世界」なんて言っても、それは例えば天国だとか地獄のようなひとつの国があり、そこには神様や天使、悪魔なんかが暮らしていて……なんて言うどこぞの物語にありそうな世界でも、現世に未練を残した悪霊達がうじゃうじゃと蔓延るようなホラーチックな世界でもない。

ただ、幽体になって、各々自分の大切な人達を満足のいくまで見守ることが出来るような世界があればいいと、そう思っていた。

もちろん、いくら生前常にそんな「死後の世界」というものを望んでいたとは言え、Aは決して、自ら死を望んでいた訳ではない。
生きていられるものならば生きていたかったし、それは、そう、「もしも死んでしまうなら」という仮定の話だ。

ただ、生きている間には本当に「死後の世界」なんてものが存在するかどうかなんて分からなかったし、例え本当に「死後の世界」があったとして、その世界がどんな世界なのかも分からなかった。
もしかしたら、Aの望むようなことはないかもしれなかった。
それこそ天国や地獄のような国があってこれからも平和に暮らしていけるのかもしれないし、悪霊が蔓延る世界で自分も悪霊として存在しているかもしれない。はたまた、幽体として意識があったとしても、その世界に見守りたいと望んだ人間がいるかどうかすらも分からない。そこは、真っ暗な闇の世界かもしれない。

そんなこんなで、生きているAには、死んでしまったら彼女がどうなるのかなんて分からなかった。
生きているAには、彼女が居なくなった世界がどんな世界になるのかなんて、本当に、何も分からなかったのだ。

だから、彼女はどうしても気になってしまったのだ。彼女が居なくなった世界のことを。
だから、彼女はどうしても望んでしまったのだ。「死後の世界」なんていうものを。