ルームシェア【志麻】 (ページ10)

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料理上手の志麻とは裏腹に、私は実家にいたとき家事は全て母親任せだったので、この部屋に引っ越した当初は料理がほとんどできなかった。

だから初めて志麻が料理をしている姿を見た時、驚いたと同時に焦った。
それからの私は本を読みあさり、頑張って料理を覚えた。
そして、今では彼氏に褒められるところまで成長した。
でも、彼氏に美味しいと言ってもらえる料理のほとんどは、志麻に教えてもらったものだった。

私は、男を落とす料理テクニック満載の志麻に作ってもらった唐揚げを食べ、ビールが身体の隅々まで行き渡る喜びを感じていた。

その時、サラダを食べていた志麻が口火を切った。

｢で、どうした？｣
『何が？』
｢何となく、何かあったんとちゃうかなって。ただのヤマ勘やけど｣

私は目を合わさないように言った。

『今日の私、いつもと何か違う？』

志麻は私をじっと見ながら答える。

｢うーん。いつも通りかも｣
『残念、今日彼氏と別れたの。いつも通りじゃないよ』
｢あっそ｣

志麻はそれ以上何も言わなかった。
仮にそれ以上訊かれたとしても、私に答える気は全くなかった。
志麻はそのことを分かっているので、話題を変えてくれた。

｢A、唐揚げの味どう？｣
『いつもより美味しくないよ』

本当は充分美味しかったが、彼氏と別れた直後で、しかもお酒を飲んでいる時は志麻をいじめたくなる。

一方、志麻は私の発言にショックを受けた振りをしていた。

｢厳しいな～、結構いい線だと思ったんやけど｣
『でもだし巻きは美味しい』

こうやって褒めることも忘れないが、志麻にはあまり効かない。
それを証明するかのように、志麻は、それは良かった、と淡々とした口調で答えるだけだった。

『志麻、仕事はどう？』

この質問は実はあまり意味がない。

｢普通の中の普通、ビックリするくらい普通｣

志麻はいつもこんなふうにかわし、私と仕事の話をほとんどしない。

志麻自身あまり話したがらないのもあるが、私が志麻の仕事について興味がないのを知っているからだ。

よって、この｢仕事どう？｣の質問は、私たちの間では会話の隙間を埋めるためのただのつなぎだ。