赤薔薇の蕾がつく頃に (ページ9)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:20,135 hit

9 ページ9

.

性懲りもなくいつもより少し丁寧にメイクをして、ちょっとおしゃれな服を着てキャンパス内の待ち合わせ場所に立つ私は何とも憐れな人間なのだろうか。

はあ、とため息をひとつついた時中村さんの「お待たせ」という声が聞こえた。相変わらずまぶしい。

「もう返せないかと思ってたから、よかった｣

『本当によかったのに…ありがとうございます』

『じゃあ私はこれで』と言い立ち去りかけた時、中村さんが「待って！」と私の腕を掴んだ。

『…？』

「…あ、ごめん、なんでもない！じゃあ、また」

何だったんだろう？と思いながらペコリと会釈をして教室に向かった。

中村さんが何か言いたげにじっと私のことを見つめていたのにも気付かずに。

＿＿＿

瑞稀side

「それで？｢これからも連絡していい？」って聞こうとして思わず手を掴んだけど？結局聞けなくてこの落ち込み様ってこと？」

「まさにその通りです…｣

「でもまあ、嶺亜がそんなこと言おうとするなんて一歩前進じゃね」

大教室での講義中明らかに暗い顔の嶺亜の話を聞くと、どうやらちょっと気になってる子がいるけどいざ連絡をとっていいか聞こうとしたら言葉が出てこなかった、とのことだった。(本人はその子が気になっていることは自覚してないみたいだけど)

…多分、2年半年前に彼女に浮気されたのがトラウマになってる。

大学に入り学園祭でバンドをやってから「ボーカル兼ギターのイケメン」とチヤホヤされている嶺亜だが、あれ以来女子との間に壁を作るようになった嶺亜はなんとなく一線を引いてる感じだ。

そんな嶺亜に「面白い子に会った」という話を聞いたのはほんの数日ほど前の事だった。

｢で？その、A？って子のこと好きなの？」

「いや…まだ会って1ヶ月くらいだし…。好きとかそういうのは、やっぱり怖ぇかな…」

「…そっか」

俯く嶺亜。もしかしたら、Aって人が嶺亜を変えてくれるかもしれないなんて思ったけど、そう簡単にはいかなさそうだ。

.