それもまた誤算 ページ16
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『…ふう、流石に飲みすぎたかも、』
着慣れていない男物の着物を脱ぎ、用意されていた寝巻きに袖を通した。客用のものだからか、ぶかぶかとまでは行かないが少し大きい。
紐を結ぼうと手繰り寄せたとき、閉じられていた襖が大きな音を立てて開いた。
「あ〜?おお、ちゃんと女がいるじゃないか!!しかもなんだ、別嬪だなあ。」
『え、ちょっと、』
やばい。確実に酔っていると言える男が勝手に部屋に入ってきた。おいおいあんたの部屋絶対ここじゃないでしょ。
遠くでお客さ〜んとおそらく目の前の男を呼んでいる声が聞こえているにも関わらず、男はずかずかと近づいてくる。
『ちょっと旦那さん、絶対部屋間違えてますよ』
「はっはっは、ここには遊女しかいないんだ、どいつを抱いても俺の勝手だろう!」
するり。足を撫でられて鳥肌が立つのを感じる。人に触られて不快感を覚えたのはいつぶりだろうか。
助けを、誰かを呼ばなきゃ。叫ばなきゃいけないと頭で理解はしているが、上手く声が出ない。
喉が閉まっている感覚だけが体を縛っていて、男が私のまだ最後まで着れていなかった服を脱がそうと手にかける動作がゆっくりに見える。
___バキッ
『…!?、え、』
突然、男の体が吹っ飛んだ。見覚えのある羽織が二つそこに並んでいる。錆兎と義勇だ。義勇は襖の前に立って店の人と何か話していた。
男を殴った張本人である錆兎は窓の近くまで吹っ飛んだ男のそばまで行って男の胸ぐらを掴み、何かを言った様だった。言葉を聞いた男は顔を真っ青にして部屋を出ていく。
その様子を見届けた義勇がぱたりと襖を閉じたため、部屋の光源はただ小さな灯りだけになり、薄暗い。
…あれ、そういえばなんで二人がここに?
その考えがよぎったのとほぼ同時に錆兎に話しかけられた。
「A」
『…へ、あ、うん?』
錆兎が私に呼びかけたその声がやけに低くて、ほんの少しだけ怖いと思ってしまった。寝巻きが乱れていることを思い出して縮こまると、窓の近くに座っていた錆兎が立ち上がり、少しずつ此方に近づいてきた。
なんとなく、ほぼ無意識に後ろにずり、と下がったが背中に何か当たるのを感じる。義勇だ。義勇は私の肩を掴んで耳元に顔を近づけ、囁いた。
「…逃げないでくれ」
『え、…と、二人とも、怒ってる…?』
___ああ。
二人の声が重なったすぐ、錆兎が私の目の前に座ったことで完全に逃げ場はなくなった。
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作者名:なる | 作成日時:2023年5月19日 18時