兄弟の進む道 (ページ32)

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新しい服ページ32

「A君、さっきはおにぎりありがとね。後で部屋に行ってもいいかな？」

燭台切は俺の横にいた悠に少し目をやった。それから俺に近づき小声でいう。

「悠君の服ができたんだ」

「本当かっ!?」

驚いてつい大きな声を出してしまった。こんな早くできるとは思っていなかった。

「うん」

「どうしたのー？」

「ふふ、なんでもないよ。さっ部屋にいこう？」

「はーい！」

燭台切は小さな服を一枚広げて見せた。

「わぁー」

悠が目を輝かせて服を食い入るように見つめた。黄色のＴシャツに青のズボンというシンプルなものだけど、それは幼い悠が動き回れるように考慮されたものだった。

「これ、僕がきていいの？」

「もちろん、悠君の為に作ったんだから着てくれないと困るよ」

「えへへ、そっかぁ」

悠はこぼれるような笑顔で笑った。燭台切から受け取った服を抱きしめる。

「ありがと！」

悠が嬉しそうでよかった。今まで新しい服なんてずっと着ていなかったんだ。ここでの暮らしが普通の暮らしなのかと言われれば違うだろうけど少しでも笑顔で、幸せになってほしい。

「もう一枚あるんだよ。今度はA君の」

「......俺の？」

まさか俺のまで作っているとは思わなかった。

「そう、似合うかなと思って和服を作ってみたんだけど。どうかな？」

それは、黒色の生地に小さく桜が散っている。赤色のはおりまで用意してあった。

これは...俺ののほうが手がかかっていそうじゃないか？

「A君は和服のほうが似合うかな？と思ってね。悠君はまだまだ駆け回るだろうから和服は危ないかもしれないしね」

「わざわざ、ありがとう。」

「僕がやりたくてやったんだ。着てくれると嬉しいな」

燭台切の言葉に頷いた。俺たちは邪魔な存在のはずなのに、すごく温かい。久しぶりに与えられる感覚に涙が零れそうになるのを堪えた。

俺は渡された着物を握りしめた。