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からん、と歩く度に音が鳴る。履きなれていない下駄では歩く速度も遅くなってしまって申し訳なく思う。
お祭りなんて何年ぶりかな。あちこちから美味しそうな匂いと楽しそうな声。
そして隣には、好きな人がいる。
わざわざ浴衣を着てきてくれた彼。見慣れない姿にドキドキして、ずっと落ち着かない気持ちで隣を歩いてしまっている。
私だって紅葉さんに服も髪もメイクも全部綺麗になるように手伝ってもらった。でも、芥川くんは普段通り平静だ。
「食べないの?」
さっき二人で買ったりんご飴。とっくに食べ終えた私とは違い、芥川くんは少し齧っただけで放置している。うーん。まだまだこの少食っぷりは治りそうにないなぁ。
「要りますか」
「え?いいの?」
「先程の様子から見て……随分お好きなのではないかと思いましたが」
「うん。好き……甘くて美味しいから」
それ以上の会話は続かなくて、差し出されたりんご飴を素直に受け取る。これ、食べたら関節キスになっちゃうけど……芥川くんは気にしないのかな。
ちょっとだけ緊張しながらカリッと齧ると舌の上で甘みが広がった。
「美味しいよ。ありがとう」
見上げた彼の表情が少しだけ緩んで見えたのは、気のせいじゃないといいな。
心の中でそう思っていると、遠くからアナウンスが聞こえてきた。花火大会のお知らせだ。時計を見ると、開催まであと三十分くらいだった。
「行こう!」
花火がよく見える場所。それも二人っきりになれる所がいい。今日を逃したらきっと言えなくなっちゃうから。
人にぶつからないようにしながら走る。はぐれないように控えめに手を繋いで。触れた手のひらの温度が愛おしくて、この気持ちを今すぐにでも言ってしまいたい衝動に駆られる。
なんだか泣いてしまいそうで、唇をぎゅっと噛み締める。
初めて会った日。緊張したような表情で、警戒しながら私を見つめていた。
あの頃は、こんなに優しく手を繋いでくれるようになるなんて思ってなかったな。
いつからか、穏やかで優しい日常の真ん中には君が居て欲しいと思っていた。
不器用でも丁寧に日々を紡いでいく君と、一緒に居たいと願っていた。
特別なことなんてなくていい。
私はただ、好きな人をずっと好きでいたい。
大切な人たちと過ごしていたい。
それを、許して欲しい。
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さくら餅(プロフ) - 紅玉さん» 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!無事完結させることができて心底ほっとしております。私は貴方様のコメントにギュンギュンしました!笑本当にありがとうございました!! (2021年2月7日 15時) (レス) id: 0223a8e0a3 (このIDを非表示/違反報告)
紅玉 - 完結おめでとうございます!!!!尊いのと可愛いので私はギュンギュンしまくってました!!!!(ギュンギュンとはキュンキュンの進化系です!!!!) (2021年2月7日 12時) (レス) id: 835185f078 (このIDを非表示/違反報告)
(=^・^=) - 人虎に会いたい…。 by芥川 (2020年12月1日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
(=^・^=) - 厳しいわ。 (2020年12月1日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
さくら餅(プロフ) - ☆天香☆さん» ありがとうございます!!すっごく嬉しいです!文ストはキャラクターひとりひとりが個性的で大好きなので、つい絡ませちゃいます笑コメントありがとうございました!! (2020年3月12日 21時) (レス) id: 0223a8e0a3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さくら餅 | 作成日時:2019年10月4日 16時