90 昔と ページ3
「えへへ〜やっとお兄ちゃんと一緒だ!」
腕を組んできて妙にベタベタとくっつきたがる妹に、少し鬱陶しさを感じる。前はこんなことするタイプじゃなかったのに。
「おい、離れろよ。で、今の名前は?」
「え〜久々に会ったのに冷たくない?私はゆずだもん!」
「じゃあその制服は?」
「ん〜これ?
妹はそう言って魔術を解くと、どこぞの令嬢かのようなワンピースに変わった。
以前とはまるで様子の違う妹。
「ゆず、何があったんだ」
なにやら眠そうにあくびをしていた妹は、いいことを思いついたとばかりに、人好きのする笑顔を浮かべる。
「そうだ、私の秘密基地に案内するよ!」
妹と手をつなぐなんていつぶりだろう。
手を取られ、そのまま翼を広げて空へと飛び立った。
*
辿り着いた場所は、家からも学校からも離れた小さな町。裏寂れた雰囲気が残る荒廃した町だ。
確か土地開発に失敗したままの状態で放置されていると聞いたことがある。そこにある無数の集合住宅からは、勿論物音ひとつ聞こえず、ただただ不気味さが漂う。
そのうちの1つの見るからに廃墟となった一軒家のドアに、妹は手をかける。まさかこんなところに住んでいるのか。
恐る恐るそのドアをくぐり抜けると、そこには前世の家がそのまま再現されていた。
朽ち果てた外装からは想像できないほど近代化された造りに、思わず唖然としてしまう。
「ね、懐かしいでしょ?」
「…まさかまた帰って来れるなんて」
部屋の配置まで完璧だ。リビングにいけば母さんが本当に待っているような、そんな空気感まである。
「お兄ちゃんの部屋もあるよ!」
そう言って2階の階段に上がっていく妹について行き、俺の部屋を開ける。
中にはベッドしか置いていなかったが、確かに前世と同じ俺の部屋だ。
「まだ家具は置けてないんだけどね、お兄ちゃんの自由にしていいよ」
「…え?」
「前みたいにさ、一緒に住もうよ。だって家族だもん。そうでしょ?」
冗談を言っている目ではなかった。
確かに俺たちは家族だ。だが、今の家族を捨てることなどできるはずもない。
「ゆず、それは無理だ。お前も今の家族がいるだろ?」
「……いないよ。そんなの。だって私、捨てられたんだもん」
「捨て、られた?」
ゆずは下を向いて黙り込む。強く握られた拳が、戦慄く。
「…全部話すって言ったからね」
そうしてゆずは、語り始めた。
俺たち兄妹の始まりの話を。
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南条(プロフ) - 雪見大福さん» コメントありがとうございます!労いのお言葉大変染みます〜次回作も考え中ですので、気長に待っていただけると有難いです! (2022年10月28日 8時) (レス) id: 97d2c6287f (このIDを非表示/違反報告)
雪見大福(プロフ) - これからも無理せず頑張ってください!楽しみにしてます (2022年10月22日 23時) (レス) @page23 id: 4031fb98ab (このIDを非表示/違反報告)
南条(プロフ) - 朱莉さん» 温かいコメント有難うございます!そのような声をいただけると作者冥利に尽きます。楽しんで読んでいただきありがとうございました! (2022年10月10日 23時) (レス) id: 97d2c6287f (このIDを非表示/違反報告)
朱莉(プロフ) - 完結お疲れ様でした。設定がめちゃくちゃ好みで、いつも更新される度にワクワクしながら拝読してました。凄く面白かったです!素敵な作品をありがとうございました!! (2022年10月10日 22時) (レス) @page23 id: 4569dbbd6e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:南条 | 作成日時:2022年8月28日 23時