57.今更 ページ27
自分の気持ちに気づいた途端に心臓の音がうるさくなる。
「A…？」
何も答えない私に社長が優しく名前を呼ぶ。
「あ…何でもないです。すみません」
「…そうか。ほら、帰るぞ」
そう言って私の前に社長の左手が差し出される。
「社長…これは…」
「は？手だよ、手」
もう、本当にこの人は…
差し出された手に嬉しさを感じる反面、戸惑う。
手繋いだら浮気になるのかな…！？
社長の手を凝視していると、社長が「早くしろ」とお怒りの声を出したので、「これは浮気じゃない」と自分に言い聞かせて社長の手の上に自分の手を重ねる。
「ん、行くぞ」
満足そうな顔をする社長は私の手を優しく包んで歩き出す。
今更気づいた気持ちに、現実に、この状況に胸が苦しくなる。
何で今、気づいちゃったんだろう…
俯くと繋いだ手が見えて、余計に苦しい。
「そういえば」
歩きながら社長が口を開く。
「その格好似合ってるな」
「え？」
顔を上げると、社長は前を向いたままだったけど、私の視線に気がついて目が合う。
「それ、俺のために着てきたんだろ？」
そうだ
社長に恥ずかしくない格好で来いと言われて、大人っぽい黒のワンピースを選んだ。
「…はい」と小さい声で返事をすると、社長はフッと笑う。
そんな社長の顔にドキッとして、急いで顔を逸らすけど、顔がカーッと熱くなる。
「良い子で待ってたんだろ？」
良い子だったかは分からないけど、仕事はちゃんとしてたし、特に何も問題はなかったから…と思って頷く。
「ふっ…… Aは良い子だな。よし、そんな良い子にご褒美をあげないとな」
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作者名：美紗翔 | 作成日時：2022年7月11日 23時
