50.ぎゅっと ページ20
「どうしたんですか」
今日は珍しく社長がカフェに来た。
「は？来ちゃいけないのかよ」
「そ、そういう訳では…」
私が社長室までカフェラテを作りに行くようになってから、社長はカフェに来ていなかった。
「……これから出張だから…テイクアウトしに来た」
あ、なるほど、そういうことか。
「そうなんですね。すぐにカフェラテ作りますね」
「…あぁ、頼む」
社長がカフェラテを作る私をじっと見るから、緊張してまた火傷しそうになる。
「…あの、そんな見られたら緊張します」
耐えられなくて社長に声を掛けると、社長はハッとした表情をして「わ、悪りぃ」と頭を掻いた。
「はい、出来ました。お気を付けてお持ちください」
「あぁ、ありがとう」
社長は手に取ったカフェラテを見つめた。
え、何か失敗したかな…？
声を掛けようと口を開くと同時に社長がパッと顔を上げる。
な、なに？
「この後、休憩か？」
「えっ…と…」
答えに迷っていると、社長が「佐々木！こいつ、少し借りてくぞ」と店長に声を掛ける。
「はいはい、どーぞ。高橋、こっちのことは気にするな」
「行くぞ」
社長がカフェラテ片手にスタスタと歩いて行く。
私も店長に頭を下げて急いで社長の後についていく。
外に出ると、ホテルの前に1台の高級車が停まっていて、社長が「乗れ」とひと言。
また、社長の運転…？
緊張しながら後部座席に乗る。
「こんにちは」
運転席から挨拶をされて前を見ると、松潤さんがいた。
「ま、松潤さん…！今日は社長が運転じゃないんですね」
「社長は出張なので、私が送迎を」
そっか、そうだよね
松潤さんと話していたら、後部座席の反対側のドアが開いて社長が乗り込んできた。
「えぇ！？社長隣座るんですか？」
「は？ダメなのかよ。ってか、普通は後ろなんだよ」
あまり近づかないようにバレないようにドアの方に寄る。
「何逃げてんだよ」
ギクッ
「に、逃げてなんかないです」
笑って誤魔化すけど、社長は私を睨みつけてからプイッと前を向いて「潤、出せ」と不機嫌そうに言った。
「え、ちょ、待ってください。私、降りますっ」
慌ててシートベルトを外そうとすると、その私の手に社長の手が触れる。
「え…？」
「このまま付き合え。またしばらく会えないからな」
ぎゅっと握られた手にドキドキする。
小さく「はい」と返事をすると、社長は前を向いたままだったけど、またぎゅっと手を握ってくれた。
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作者名：美紗翔 | 作成日時：2022年7月11日 23時
