✡勿忘(🦓🦔) ページ10
Awesome City Clubさんの同タイトル曲から。
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こーち。俺たちの始まりは、あの日のキスだった。キスと言っていいのかも分からないほどかすかな、ふれ合うだけの小さな口づけをしたね。
9cm高いところにある俺の顔を見上げて、上目づかいの大きなまんまるい目が三日月形にしなる、その瞬間がとても愛おしくて、大好きだった。抱きしめるとほんのりあったかくて、少し速い心臓の音がくすぐったくて。
きっと初めて会った時からずっと、好きだった。でも俺は臆病だから、ちゃんと本気の言葉にして伝えることが、できなかったような気がする。
伝えたら、俺たちの積み上げてきた関係が崩れてしまうんじゃないかって怖かった。そんなことないはずなのにね、今ならわかるのにな。
ごめんね。もっと早く言えばよかった。そうしたら、もっとたくさん、恋人としての時間を一緒にいられたのにね。
……後悔の言葉はいくらでも出てくるけれど、キリがないからここら辺でやめることにします。
思い出は両手を使っても数えきれないほどあるけれど、付き合ってから初めてしたデートはやっぱり特別。高速を抜けてたどり着いた、一面の水色を覚えている？ ぬけるような空の下、忘れな草の花畑はまるで永遠に続いているみたいに、俺たちを迎えてくれたよね。
ふたりして、『すごい』とか『キレイ』とか、そんな子どもみたいな感想しか出てこなくて、笑い合いながら、ぎゅっと固く手をつないで。
しあわせだったね。何に代えることもできない、あたたかい時間だった。
俺の病気がわかったのは、それからすぐのことだった。
俺があと少ししか生きられないって分かった時、いっぱい泣いてくれてありがとう。あのとき、うまく感情を整理できなかった俺には、こーちが自分の代わりに怒って、悲しんで、泣いてくれたみたいに思えて、すごく嬉しかったんだよ。
そばにいて、手を握っていてくれてありがとう。あんなにも優しい手がこの世にあるなんて知らなかったよ。ひとりじゃないことが、どれだけ心強いことだったか。
それから、最後に。
俺を好きでいてくれて、本当にありがとう。
もし生まれ変わりがあるのならまた出会いたいと本気で思う。
最高の恋人へ。
どうかどうか、しあわせになってください。
愛を込めて。
―――――――
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作者名：灰 | 作成日時：2023年12月11日 23時
