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一定のスピードで落ちる点滴の雫をぼんやりと見上げる午後。鼻につけられた管に酸素を送る機械音が、やたらと耳に響いている。火照ってだるい身体をくたくたのシーツに沈めて、静かに瞼を伏せた。
昨日、お医者さんは俺に、『緩和ケアを考えないか』と優しく問いかけた。つらい治療はやめにして、痛みをとって、今の苦しさをすこしでも和らげることを目標にしませんか。
病気になって少しは勉強したから、緩和ケアというのが“ 死を待つだけの人に提供されるもの”、みたいなことじゃないのは知っている。早い段階から、治療に並行して取り入れることが望ましいらしい……とか。でも、昨日俺に提示されたそれは、明らかにそんな意味合いではなかった。既に治療効果の望めない、余命の短い患者に対するそれは、つまりもう、そういうことだ。手詰まり――そう言われている気がして、俺は唇を噛んだ。悔しかった。何より、その言葉にどこか安堵してしまった自分が、悔しかった。
38度台前半からずっと下がらない熱は、俺の正常な意識を奪って深い霧をかける。昨夜グループトークに送られてきた、『明日は俺行くわ』と大我からの短いメッセージをふと思い出し、話をしなければならないなぁ、と熱いため息をついた。じきに病棟を移って、薬も点滴も最小限の量に減らすんだって。でもそれは良くなったからじゃないんだよ、逆なんだよ――なんて、まともな顔で話せるかな。俺がちゃんと伝えきれれば、きっと彼は上手に受け入れてくれる。大我がたまに見せる“お兄ちゃん”の顔を、俺は好きだった。
さらさらと揺れるカーテンの向こうに透けた赤い夕陽が、病室を暖色の光に包む。廊下のほうからパタパタ軽い足音が聞こえてきて、俺は重たい瞼を持ち上げた。
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作者名：灰 | 作成日時：2023年12月11日 23時
