Adagio Cantabile 2 (ページ3)

今日:21 hit、昨日:55 hit、合計:28,998 hit

・ページ3

あっという間に、必死こいて掴み直した“アイドル”の自分は二度と届かない場所に消えてしまって、残ったのは死を待つのみの病人ただひとり。言いようのない虚脱感めいたものが全身を覆っていて、日毎に増していく身体の不具合っぷりばかりが重たくのしかかってくる。スマートフォンに溜まっていく未読のメッセージのほとんどは樹からのもので、ジェシーや髙地からの不在着信もいくつか残っている。ごめんなさい、避けているとかでは無くて、ただ本当に気力がどうにも湧かないんだよ。身体はどんどんしんどくなるし、何より“ただの一般人”に戻った俺が、今まさに栄光の中にあるあなたたちと一体何を喋れるっていうの。

「――いまの俺に、なにが残ってるっていうのさ……」

呟きが漏れると同時に、肺の奥が潰れるように痛んだ。ひきつりそうな呼吸を必死に殺して、波が過ぎ去るのを待つ。苦痛を逃がそうとシーツを手繰り寄せ、赤子のように背を丸めて抱き締める。痛みは引くどころか鋭さをどんどん増していくようだった。生理的な涙にぼやける視界の端、枕元に放っていたスマートフォンの画面にあかりがつくのが見えて、反射的に手を伸ばした。

たすけて、

意識が底深くへと落ちていくのを感じながら、友が俺を呼ぶなつかしい声を聞いたような気がした。

collapse(🦁)→←・