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ああだこうだと駄弁っている最中、彼がわずかに息を詰めたのが分かった。
「ジェシー？ どした」
「――んーん、何も」
「……そ？」
明白に言葉を濁したことに気づきながらそれを受容してしまったのは、今思えばそれこそが大きなミスだった。一瞬の間を置いて再開される会話、その合間に彼は病衣の合わせ付近へ何度も手をやり、まだ新しい傷痕のはしる胸を気にするような仕草を見せる。
なぁ大丈夫、そう俺が口を開きかけたのと同時かそれよりも早く、彼の唇の隙間から、噛み締めるような呻きが悲痛な響きをもって溢れ出た。
「――っう、んん、ぅ……っ！」
「ジェシー！？」
ぎゅうっと丸まって縮こまる、薄くなってしまった身体。胸元の布をきつく握りしめた手は、力を込めすぎてか真っ白になって震えている。
「は、あﾞッ……ぃ、た……っ」
「――っナースコール……！ いま、押した！ 今押したから、な……っ！ ジェシー！」
「う、ぅ……っぐ、」
ベッド柵にぶら下がっていたナースコールを引っ掴んでボタンを押し、布団の上に倒れ込む彼の背を必死でさする。冷や汗にじっとり湿っているのに、あまりにも低い体温。触れた掌から、恐ろしさがぞわりとこみ上げる。『どうしましたか』と呼び出しベルのスピーカーから看護師さんの声が聞こえたが、喉の奥が閉まったように声がつっかえて出てこない。じわじわと滲んでくる視界。その間にも、彼の荒い呼吸と喘鳴混じりの呻き声は、さらに苦しげなものになっていく。乱れた髪の隙間からちらりと覗いた頬は青ざめていて、唇は紫色に変色していた。なにもかもが俺の知らない彼の姿だった。
――数分と経たないうちに駆けつけてきた看護師さんは彼の様子を見るやいなや慌てて医師たちを呼び、あっという間に俺は彼から引き剥がされた。横たえられ病衣を解かれた彼に、沢山の機械や点滴が次々と繋がれていく。飛び交う医師と看護師の鋭い声、けたたましいアラーム音、そして、断続的に聞こえてくる彼の悲痛な呻き声。
俺は何もできなかった。何かできたはずなんてそんな大層なことは思っていないけれど、でも、何かもっと、しなければならなかった。そうだ、なにか、もっと。
――なぁ、ジェシー。
追いやられた部屋の隅、俺はその場に立ち尽くし目の前の光景を眺めることしか出来ず、ただこの悪夢じみた現実を飲みくだそうと必死だった。
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作者名：灰 | 作成日時：2023年12月11日 23時
