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「敬語いらないよ！ 歳近そうでしょ。俺ジェシー、いま27」
「あっ、そうなんで……そうなんだ。俺は松村……北斗、28歳。今年の6月で29――」
そこまで言って、ふと我に返り『6月まで生きてればの話だけど』とつけ足した。彼は特段驚いた様子もなく、『え、俺も同じ6月生まれだよ！』と目を瞬かせて、勢いよく俺の手を取った。と思ったら、素早くその手を引っ込めて、困ったように目尻を下げ苦笑する。
「――っごめん、つい！……俺、なんか凄い見た目でしょ。目もどろっと濁っちゃってるし、肌もだいぶ黄色くなって……ゴメン、気色悪くない……？」
「えっ、あ――」
言葉に詰まる。目の前の彼の表情が微かに曇るのを見て、慌てて『待って、違うんだ』と彼の腕を掴み直した。
「……？ ホクト、くん？」
「呼び捨てでいいよ。――ごめん、そうじゃなくて。……俺ね、色が分からなくてさ」
「え」
今度は彼が言葉を失った。切れ長の目をまるくしてこちらを見つめる彼に、俺は続けて話し出す。
「……全色盲って知ってる？ 俺、一色型色覚でね。全部が白黒とグレーに見えるから――だから、肌が黄色い？ とか、濁ってるとか、分からなくて。俺」
「……じゃあ、俺の姿も普通の人と同じみたいに見えてる、って、こと？」
「同じというか――まぁ、そうだね。明るいグレーだから、色白な方なんだな、くらいに……」
「――そっか。HEHE」
彼は俯き気味に、なぜか少しだけ嬉しそうに微笑んだ。想像とは全く違う反応に、俺はわずかばかり動揺してしまう。
「……友達も家族も、俺の顔見て皆悲しそうな顔するんだよ。『顔色悪いね』『しんどくない？』って、さ。心配は勿論ありがたいことなんだけどね、そんなに酷いかな、って――そんなに変わっちゃったかぁ、って」
「……だから、ホクトの目には俺が普通の人みたいに見えてる、って聞いて、少し安心しちゃって。嬉しくなっちゃった。――ホクトは大変なのにね、ごめんなさい」
話し終えて、笑顔を作り直した彼の頬に、ひとすじの涙がつたうのが見えた。それはすべらかに肌を滑り落ちて、ぽたりと二人の間に着地する。
「――俺の目のこと、そんなふうに有難がってくれる人なんて初めてだよ。……それにさ？」
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作者名：灰 | 作成日時：2023年12月11日 23時
