落日(🦅と🦓) ページ14
『ほくじぇ』『患者同士』『昏睡』の3題から産まれたおはなし。
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ジェシーと出会ったのは、俺がこの緩和ケア病棟へ転科してきた日のことだった。病室まで迎えに来てくれた看護師さんに車椅子を押されて、初めて立ち入った院内最上階の病棟。今までいた消化器内科のフロアと基本的なつくりは同じはずなのに、全く違った空気が流れていると感じた。まぶしいほどに陽の光が入る廊下を行き交う人々は総じて、みな穏やかな表情を浮かべていた。
案内されたのは、ナースステーションに近い二人部屋だった。奥側の区画はカーテンが閉まっていて、そこにいる住人こそが入口のネームプレートに書かれていた『ジェシーさん』であると分かる。外国の方だろうか？ アメリカの名前かな、なんてぼやっと考えているうちに、あれよあれよと荷物を整えられ俺はベッドへと移され、繋がれっぱなしだった点滴が正常に滴下しているのを確認し看護師さんは部屋を出ていった。
一気に室内に訪れた静寂。ひとときの間を置いて、向こう側のカーテンがシャッ、と音を立てて開いた。
「……はじめまして。こんにちは！ 新入りサン」
出てきたの『ジェシーさん』は、若そうな男性だった。弾むような声色。彼は『待ってね』とジェスチャー付きで俺に言うと、こちらのベッドサイドへゆっくりと歩み寄ってきた。俺もそこそこ高身長だったけれど、たぶん俺よりも背が高そうに見える。ニット帽を目深にかぶり、かなり痩せてはいるものの何処かやわらかな雰囲気が彼からは感じられた。よろしくね！ と人の良さそうなで笑顔で笑いかけられ、慌ててベッドから立ち上がろうとすると『いいよ』と制される。お言葉に甘えて座ったままで、よろしくお願いします、と返した。
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作者名：灰 | 作成日時：2023年12月11日 23時
