▼静寂。 ページ16
(2020.06.22)
.
程なくしてインターホンが鳴った。
カメラを見ると変わった帽子にマスクをした増くんが立っている。
エントランスの鍵を開けてあげて少ししてから玄関のインターホンが鳴った。
扉を開けると、少し痩せた様な気がする彼が力なく笑ってた。
『早かったね』
「外に居たからね！てかAの家来るのめっちゃ久しぶりなんだけど！入って良い？」
『どうぞどうぞーー』
来客用のスリッパを履いた増くんは我先にとリビングへ入っていった。その姿を後ろから眺めながら私も後を追う。
こうやって彼が家に来るのは本当に久しぶりだ。
基本的に自分のテリトリーに他人を入れる事が好きじゃないから家には呼ばないんだけど、増くんは前にも一度来た事があるし私の家を知っている唯一の友人だろう。
「ほんと久しぶりだわーー」
『前に来たのっていつだっけ？』
「え、覚えてない」
『私も。多分最後に人入れたの増くんだと思う』
「えーマジで？俺なの？」
キッチンで手を洗って棚からグラスを取った増くんは嬉しそうに炭酸水を開ける。氷に溶けていくバーボンと炭酸水の泡がじわり、と心を落ち着かせた。
「Aってウイスキー好きだよね」
『よく知ってるね』
「Aの事は何でも知ってるよ。それこそ家の場所とか」
『それは不可抗力でしょ？』
「でも凄い偶然じゃん？同じマンションに引っ越すとか」
『まぁ……確かに』
得意げに笑った増くんがグラスをこちらに傾けたから私のグラスと重ねる。カチン、と優しい音が鳴り「乾杯」と囁いて冷えたバーボンを口に含んだ。その仕草が妙に色っぽい。既に飲んできたのか若干首元が紅く染まっている。
彼も昔、このマンションに住んでいたのだ。そこに私が引っ越して来た。私は知らなくてある日突然マンション内で声を掛けられた時は本当に不審者かと思ったけど、よーく見たら増くんで2人で吃驚したって言う話だ。
今はもう彼は住んでいないけど、お陰で彼はたまに遊びに来る様になった。
暫く静かな時間が流れる。
時計の秒針が進む音。
遠くから聞こえる車の音。
風に揺れる木の葉が重なりあう音。
グラスの氷が溶ける音。
二人の心音すらも聞こえてきそうだ。
「ねぇ、A」
口を開いたのは増くんだった。
前髪が顔にかかりその表情はよく見えない。
「手握って」
『……手？』
「どこにも行かないように」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 64人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
momo - ほんとにこのお話大好きです！ なので、またいつか更新してくれるのを待ってます！ (2021年4月7日 11時) (
レス) id: 0a3381035e (このIDを非表示/違反報告)
すー(プロフ) - 面白いです！続きが更新されるの待ってます。頑張ってください。 (2020年10月15日 10時) (レス) id: 91e5b79796 (このIDを非表示/違反報告)
なーさん - 大好きです！ (2020年8月19日 22時) (レス) id: 808257ca1e (このIDを非表示/違反報告)
aki(プロフ) - FFZSKRsocO4pADaさん» コメント有り難う御座います！頑張ります(*´-`) (2020年8月14日 23時) (レス) id: d967e47327 (このIDを非表示/違反報告)
FFZSKRsocO4pADa(プロフ) - 続きがきになります。更新がんばってください (2020年8月14日 18時) (レス) id: 91e5b79796 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：aki | 作成日時：2020年8月8日 14時
