26話 ページ26
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『…先輩、今どこですか…?』
『っ別に、ちょっと出てるだけだよ?』
『いいから、教えてください。』
『…わかんない』
『…?わからないって、』
『……っとりあえず、大丈夫だから!』
『は、え、ちょっ』
無理やりぶっちぎって電話を終わらせる。
別にやばいことされた訳でもないし、男が痴漢されて慰めてもらうっていうのは流石にない。
これは自分の心の中に閉まっておこう。
さぁ、どうやって家に帰ろうか。
もうさっきの奴はいないだろうし、流石に駅に行けば帰り方くらいわかるだろう。
そうしてゆきは勢いよくベンチから立ち上がり、駅に向かおうとした。
そこで異変が起きた。
全身に回る熱。
視界がぼやけて、頭の回転が鈍くなる。
気がつくとベンチに倒れ込んでいて、ゆきはシャツの胸元をきつく握りしめた。
「ッは、はぁ…はぅ、ま、じか…」
ヒートだ。
間に合わなかった。
薬だって持ち合わせていないし、病院まで行ける気もしない。
そもそもここがどこだかわからないわけだから、助けを呼ぶことも出来ない。
ゆきは後悔した。
相川くんにちゃんと言っておけばよかったと。
だが既に後の祭り。
こんなにも強いΩの匂いを漂わせて、αが寄ってこないわけがない。
向こうからゆきの様子を心配そうに見てきたエリートであろう男が、半径1m以内に入った途端、目の色を変えた。
きっとその男には家族がいるんだろう。
泣いていた。俺も泣いていた。
運命は残酷だと何回感じれば気が済むんだ。
例え愛する人がいようが、運命の番がいようが、本能には逆らえない。
痛いほど感じる。相川くんに出会ってから人間がいかに理性で生きているのか、本能に負けた時どうなるのか、そういう経験をするようになってから人を見る目が変わった。
この人はαだとか、Ωだから安心だとか、外見、性格の前にそっちを気にするようになった。
最低だ。
でも仕方ない。
男は言う。
「っふざけるな…!俺には、家族が、妻がいるのに!!」
「Ωが、Ωなんて嫌いだ…!無条件に誘惑しやがって、俺は、俺はっ」
泣きながら、俺のシャツを暴いていく。
もう慣れていた。乱暴されることも、襲われることも。
慣れないと生きていけないから。
あの子に、相川くんに縋ってはいけないから。
ごめんなさいと、謝りながらその人が泣いているのをただ見ていた。
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可愛そうなゆきくん…ごめんね…
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ぷわ猫 - なんかすっごい好きです←素晴らしい神作ありがとうごさいます、、、!癒しすぎる、、、 (2020年4月8日 23時) (レス) id: 82f2e315dc (このIDを非表示/違反報告)
どーる(プロフ) - ライ@寂しがりやの泣き虫テディベアさん» 私もこういう女の子好きなんです!! (2017年10月23日 4時) (レス) id: b65a035319 (このIDを非表示/違反報告)
どーる(プロフ) - 藍薇さん» 素直に嬉しいです。これからもよろしくお願いします! (2017年10月23日 4時) (レス) id: b65a035319 (このIDを非表示/違反報告)
どーる(プロフ) - む犬さん» ありがとうございます!励みになります(*´^`) (2017年10月23日 4時) (レス) id: b65a035319 (このIDを非表示/違反報告)
ライ@寂しがりやの泣き虫テディベア(プロフ) - 柳さん大好き… (2017年10月16日 16時) (レス) id: 799577fb0d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:どーる | 作成日時:2017年8月22日 22時