情報学専門学校【アイビス】

＊ ページ15

美香はまだイライラしていたが
「とにかく、入って文句の一つでも言わなきゃ気が済まない！」
と言いながら扉を開けた。
わたしは静かに後ろについていく。

「急に連れてきたことについては申し訳ないと思う」
普段通り、素っ気なく氷坂は言う。
「でもこれは仕方ないと思ってほしい」
「何が！？」
「君も」氷坂は一度目を閉じた。「巻き込まれると思うから」
「バカバカしいこと言ってないで！ っていうかそもそも何でこんな場所知ってるの！？」
「僕が建てたわけじゃない」

話が噛み合わない。
氷坂にかみつく勢いがどんどん落ちていく美香を見る限り、怒りを通り越したのだろう。


「ここは……如月館。荒波愼吾曰く、月の旧名が名づけられている旧校舎の建物の一つ」
「あ、そう」
興味なさそうな美香の声。
はっきり言って、わたしも興味はない。

わたしの成績は壊滅的。
だから月の旧名と言われてもわからない。
「じゃあと、睦月、弥生、卯月、皐月、水無月、文月、葉月、長月、神無月、霜月、師走の
名前の建物があるんだ」
「なんか12個も知らないものが出てきた気分……」

美香が呆れた顔で
「今のが月の旧名だよ」
「そうなんだ」
実際、初めて知った。
感心している風のわたしの横で
「ちょっといい」


氷坂がIDEAを起動させた。
そして、素早く浮き出た画面をタップしていく。
「ちょっと、何してんの」
わたしを庇うように美香が氷坂の前に立ちふさがる。
「こうするのが手っ取り早い証明」

説明にならない発言をして作業を続ける氷坂。
こんなときでも、表情は全く変化していない。
そんなことより、
「ねえ美香。今氷坂がやってるの、何かわかる？」
美香は成績優秀。今まで習った情報学は全てこなすことができる。

美香なら何かわかるだろうと思ったのだが、
「ううん、わかんない」


どうやら氷坂はわたしたちよりも格上のようだ。
グレードは同じ。だけど実力は雲泥の差だ。

「さて、今から僕の方を見続けてほしい」
ナルシストか、と言おうとしたときに異変が起こった。
「氷坂！？」

わたしたちの声が如月館に響く。
そう、氷坂の体が見えなくなったのだ。

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