第392夜 理由 ページ43
◇
さら、と長い髪が靡く。
黒い髪の間から覗くのは、これまた黒い瞳。
「ユナン、薪割り終わったぞ」
その長い髪をうざったそうに払い、彼女は斧を薪割り台に突き刺す。
「お疲れ様。お茶入ってるよ」
髪を耳にかけながら、少女は扉を開いた。
「おう、ありがと」
「と、少女にしては低い声でぶっきらぼうに返事を……」
「一人で何喋ってんだよ、ついにボケたか」
「……ひどいなあ」
茶を啜りながら、変なことを一人呟いていたユナンをなじる。
この生活も、どれくらい続いているだろうか。時間の感覚というものが薄いこの地では、自分でもよく分からない。
だが一度、ユナンに聞いたことがある。
『なあユナン、私がここに来てから、どれくらい経ったかわかる？』
『え？ そうだなあ……二年、いや三年くらいだったかな』
『…………！？』
あの時は本当に腰が抜けたかと思った。そして驚く私を見て驚くユナンにさらに驚いた。こいつ、見た目は若いように見えるが、実年齢はいくつなんだろう。ていうかそもそも年齢が予測できない外見をしている。二、三年なんて一瞬じゃないか、誤差じゃないかという目をしていたのはずっと忘れられないだろう。
この谷に時間の感覚がおかしくなる魔法でもかかっているんじゃないかと思ったが、確かに外界との接触を完全に断っている以上、そういうこともある……のだろうか。
そしてそれだけの時を、毎日体を動かす練習──という名の筋トレ──をしながら、たまに文字を教えてもらって、あとは食って寝るだけの生活。学校もないし、そもそも外にも行けない。すごく暇なように聞こえるが、そうでもなかった。私からすれば、ユナンが聞かせてくれる話が一番の楽しみだった。
そしていくつか、驚いたことがある。
ひとつは、この世界には複数の文字が存在すること。話す言葉は同じでも、国や地域によっていくつかの言語体系があるのだと。話せるのならある程度の自由はあるだろうが、やはり私は少しでも読み書きできるようになりたかった。……ここには本があったから。
それに、これは私の感覚だが───読み書きもできないのはどうなんだ、とも思ったんだ。
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名無しさん(プロフ) - 藍茶さん» 藍茶さん初めまして、ご感想ありがとうございます！返信が遅くなってしまってすみません。この状況下なので私生活でも色々あったのですが、できるだけ更新ペースも元に戻していきたいとは思います。よろしくお願いします (2020年6月4日 16時) (
レス) id: 8c887b66b4 (このIDを非表示/違反報告)
藍茶(プロフ) - 最近読み始めました。めっちゃ面白いです！更新待ってます(*´ `*) (2020年5月10日 1時) (レス) id: cd49a05e5e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：名無しさん | 作成日時：2020年3月4日 21時
