〃 ページ36
「はい、おしまい」
「────っ」
ぱん、と手を叩く音と共に意識が引き戻される。気付けば体中汗だらけで、手はまだ小刻みに震えていた。
「……なんで」
自分でも気付かないうちに声が漏れていた。ユナンはそれに答える。
「この家と君の体にはね、今の君に最適な環境を作る魔法がかかっているんだ」
「最適な、環境？」
「うん。君の体は、まだあまりにも馴染んでいない。僕の魔法なしじゃ何もできないくらいにね。
さっきのは、僕の魔法を少し緩めたんだ。そしたら、指で数字を表わすのもできなかったでしょ？」
何も言えなくなってしまう。自分ではもう大丈夫だと思っていたら、ユナンの補助があってこそ体を動かせていたなんて、穴があったら入りたい。
俯いて黙る私を見て何を思ったのか、ユナンはカップにお茶を注ぎ、私の前に置いて言葉を続ける。
「そんなに急がなくても大丈夫だよ。こればっかりは君の努力だけじゃなくて、時間の経過にも任せなきゃ駄目だからね」
「……その、ごめん。全然知らなかった」
「だって僕が言ってなかったもんね？」
このふわりふわりとした態度はさっきから何一つ変わってないなと思う。伏し目からユナンを見上げれば、またふふっと笑みを零した。
「それよりも。名前、決まったかい？」
「……あ」
完全に忘れていた。ユナンはずっと『君』と呼んでくれていたし、確かに名前がなくちゃ不便だろう。
だが、これといって何も思い浮かばない。こういうセンスは皆無なんだよなあと頭をかく。
「無理に考えなくてもいいんじゃないかな？ ぱっと頭に浮かんだものでもいいと思うよ」
「ぱっと、って」
それも中々の無茶じゃないかと考え込む。ほとんど空に等しい知識を総動員させるけれど、あまり良い単語は思い浮かばなかった。
「浮かばない？」
「浮かばない」
「そっか」
「ユナンが考えてよ」
「僕が？ ……ううん……」
と、ユナンにしては珍しく、難しそうな顔をして真剣に考え込んでしまった。
「ごめん、無茶振りした」
一言謝って、諦めて湯気の立つ茶を啜った。
ほんのりと甘い味が広がる。花の香りを感じながら、目を閉じる。
────名前────……
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名無しさん(プロフ) - 藍茶さん» 藍茶さん初めまして、ご感想ありがとうございます！返信が遅くなってしまってすみません。この状況下なので私生活でも色々あったのですが、できるだけ更新ペースも元に戻していきたいとは思います。よろしくお願いします (2020年6月4日 16時) (
レス) id: 8c887b66b4 (このIDを非表示/違反報告)
藍茶(プロフ) - 最近読み始めました。めっちゃ面白いです！更新待ってます(*´ `*) (2020年5月10日 1時) (レス) id: cd49a05e5e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：名無しさん | 作成日時：2020年3月4日 21時
