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◇
「……ふ、ぅ……ぁ、ぐ……」
「がんばって、あと三回」
ぼたぼたと汗が垂れる。はて、自分はこんなに汗をかくほうだったか。どちらかというとあまりかかなかった気がする───と、無駄なことに意識を持って行った隙に、べたんと床に倒れ込んでしまった。
「あー、惜しいね。あと一回だったのに」
「……も、無理……」
腕立て伏せをする魔法使いなんて聞いたことがないぞ、と心の中で訴える。そして腕立て伏せは奥が深いのかもしれない。腕だけじゃなくて、既に全身が痛いです。
「そっか。お疲れ様、お茶飲む？」
「……水で」
手渡されたカップの中身を一気に飲み干す。冷たい水が喉を通っていく。それが胸のあたりにじわりと広がるのを感じて、大きく息を吐いた。
「はぁ……ユナン、いつまでこの運動すればいいの？ もうそこそこ動けるとは思うんだけど」
と、若干不満混じりに零してしまう。もうどれくらい運動をして飯を食って寝る日々を過ごしたか。私としては、たまにユナンが聞かせてくれる『魔法』を教えてほしいと思ったりしている。
それに、ゆっくりだけど自分で歩けるようにもなった。これなら多分、ユナンの手伝いだってできるはずだ。
「うーん。あとどれくらいっていうのは、はっきりと言えないんだけど」
どこかやる気のなさも感じられる声を聞きながら、私も椅子に腰掛ける。
「じゃあ、僕が今から言う数字を指で表わしてみて」
「？ なんでそんなこと」
「いいからいいから。一回ずつリセットしてね。手はどちらを使ってもいいよ」
とりあえず言われるがままに、軽く握った手をユナンへと突き出す。
「１」
右手の人差し指を立てる。
「４」
一度握りこぶしにしてから、親指以外の指を立てた。
───空気が、重くなったような。
「じゃあ次は、７」
握りこぶしを作る。それから、それから右手を全部開いて、左手の指を、ひとつ、ふたつ。
「９」
握りこぶし。右手を全部開く。左手も全部───じゃない。左手は親指以外を───どうして、動かないんだろう。
手が、指が、自分の末端が、自分じゃなくなっていくみたいだった。視界はぼやけて、ぽたりと水滴が服に染みをつくる。
脳がついていかないのか、体が処理に追いつかないのか、分からない。上手く鍵盤を押さえられなくて、手が震えるあの瞬間によく似ていた。
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名無しさん(プロフ) - 藍茶さん» 藍茶さん初めまして、ご感想ありがとうございます！返信が遅くなってしまってすみません。この状況下なので私生活でも色々あったのですが、できるだけ更新ペースも元に戻していきたいとは思います。よろしくお願いします (2020年6月4日 16時) (
レス) id: 8c887b66b4 (このIDを非表示/違反報告)
藍茶(プロフ) - 最近読み始めました。めっちゃ面白いです！更新待ってます(*´ `*) (2020年5月10日 1時) (レス) id: cd49a05e5e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：名無しさん | 作成日時：2020年3月4日 21時
