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「お願いですから───琥珀が、琥珀の手で、大切なひとたちを殺さないで!」
「──────」
一瞬だけ、その黒と茶の入り混じった瞳が見開かれた。
そして、瞬間。
何の因果か。
扉を開けた先で何もない所に躓き、その体はぐわんと傾く。先程までの身体的な理由ではなく、重力という至極まともな理由で。
「琥珀ー!?」
なぎさの声が響く。
カラダが不安定なこともあって、琥珀は咄嗟の反応ができなかった。
近づく地面。
砂の粒まで手に取るように分かる。
手をつこうとして──────
その体は、水に落ちたように墜ちていった。
どぼん、とどこかで音を聞いた。
水? そんなものはここにあるはずがない。
だがどうだ。琥珀の意識は深く深く墜ちて、体は上に取り残されていた。そこには顔を青くして動かなくなった体を揺さぶるなぎさと急いで飛んで来たクルトが見えた。どうしてか、ひどくスローモーションだ。
実際には、琥珀は地面に額を強く打ち付けていた。
だが意識を失ったのは、それが理由じゃない。
ジェットコースターのように墜ちていく。
この感覚を、琥珀はどこかで知っている。体験している。
琥珀をここへと引き込んだのは、彼女だ。
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作者名:名無しさん | 作成日時:2019年11月3日 19時